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2009年10月12日 00:00
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序曲(42) 金鶴泳

 大学に通い続けながらも、しかし祥一の中には、ここでちょっと小休止したい気持ちが募っていた。生の方向がわからなくなりかけていた。そして、曖昧な姿勢のままで学業を続けるのが、彼には苦痛だった。
 一年間大学を休んで、読みたい本を思う存分読んでみたい。そして、自分の生き方について考えてみたい。
 前期の期末試験の直前、十いくつある工学部各学科への、進級基準成績の第二次集計が、構内のアーケード掲示板に発表されていた。試験の平均点によって、進級先が振り分けられるのだが、最高点は電子工学科の八○・八点、次が機械工学科、および電気工学科の七三・九点で、合成化学科は七二・四点だった。最も低いのは、建築工学科の四五・○点である。
 この基準からすると、期末試験によほどの失点がないかぎり、志望の合成化学科にはどうにか進めそうだった。三年に進級したら、一年留年しよう、という考えがある日ふっと祥一の胸に湧いた。いちど湧くと、それはもう決断も同然だった。
 やがて、後期の授業がはじまってまもなくに、前期期末試験の成績発表があり、彼はどうにか合成化学科に配属された。二年の課業が終るまで、あと半年たらずである。もうしばらくの辛抱だ、と彼はうわの空の気持になりつつも、とにかく大学に通い続けた。そして、三年に進級すると同時に、彼は留年生活に入った。


 二年の後期の期末試験が終り、春休みで一カ月ばかり帰省していたある日に、ロシア語の勉強をしたいので、一年間大学を休みたい、と彼は父母に告げたのだが、ロシア語勉強のためという口実はまったくの出まかせでもなかった。四年になって、卒業論文のための実験がはじまったら、ロシア語の文献を読む必要が生じることが予想された。たいていは、英語か、第二外国語として選択しているドイツ語の文献で間に合うだろうが、ロシア語の文献も読めるようになっていた方がいいだろう、そう考えたのだ。
 それに、一年間ずっと下宿にばかり閉じこもる生活も、きっと飽きがくるに違いない。自分は孤独を求めている方の人間だが、孤独な生活に浸りきるというのも、精神衛生上よくあるまい、そんな気持ちもあった。
 気分転換がてら、どこかのロシア語学院にでも入って、週何回かそこに通い、ロシア語の、少なくとも基礎的な勉強だけでもしておこう、そう考えて、彼は、ロシア語の勉強を留年の口実として挙げたのである。
 だが、彼はまだロシア語学院に通っていない。半年間は、自由気ままにすごしたいと思っていた。ロシア語学院に通うのは、九月からにしようと決めていた。
 彼は栗の葉からまた目を本に戻した。しばらく『野火』を読み続けていると、ドアにノックの音がし、岡田が部屋に入ってきた。
「郵便が届いていますよ」
 と岡田は、玄関脇の郵便受から取り出してきた祥一宛の手紙をわざわざ届けにきてくれた。
「やあ、どうも」
 岡田も手紙を手にしている。
「定期便かい」
 岡田が手にしている手紙に目をやり、祥一は笑いを浮かべた。
「ええ、また来ました」
 宇都宮の恋人からのものだが、さすがに近頃は、祥一に手紙を見せなくなっている。
 岡田はすぐに部屋を出て行った。
 岡田が持ってきてくれたのは、洋子からの手紙だった。

1984年8月17日4面掲載

1984-08-17 4面
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