金成萬(予備役海軍中将)
金章洙前国防部長官が退任の直前、合同参謀本部(以下「合参」)等の軍の首脳部に、北朝鮮の挑発可能性を警告したと伝えられた。言論報道(2008年3月4日、中央日報1面)によれば、軍の高位関係者は「金前長官が今までの経験から見て、今年の前半期に北朝鮮が挑発する可能性が非常に大きいと判断するとし、軍首脳部に徹底的に備えることを最後に頼んだ」と言った。金(キム)前長官は、「北朝鮮が挑発する場合、西海の方になるだろう」と予想した、とこの関係者は伝えた。
先月(2月)の29日退任した金前長官は、「合参」の作戦部長と作戦本部長、韓・米連合軍司令部の副司令官を経た作戦通である。彼は盧武鉉政府で15ヶ月間、国防部長官を務めた。在任中、第2次南北頂上会談(2007年10月)に盧武鉉大統領の随行員として、そして第2次南北国防長官会談(2007年11月)に南側首席代表として、最近平壌を二回も行ってきた。
平壌で北朝鮮の人民武力部長(金鎰喆、国防長官)に二回会った。最初の接触(昼食室)で、金鎰喆(キム・イルチョル)は、金章洙長官に駐韓米軍の全面撤収を要求した。二番目の接触の時、金鎰喆は「西海の北方限界線(以下NLL)」に対する南側の譲歩を強要した。結局、韓国側は会談場で「北朝鮮船舶の西海のNLLを通過する海州への直航路の開設」(合意書の第5条2項)に合意した。また、「西海共同漁労区域設定」(第3条1項)は、南北将軍級会談で協議・解決することにし、「海上不可侵境界線(NLL)問題」(第2条2項)は、南北軍事共同委員会で協議・解決すると譲歩した。結果的に北朝鮮の「西海NLLの無力化」の要求を全て受け入れたのだ。
ここで、NLLは明確に南北の海上境界線(休戦ライン)であり、西海の5島を防御する韓国の生命線だ。陸上の軍事分界線(MDL)と同じだ。なのに、私たちは自らこのNLLを否定し、今後この問題を南北が議論することにしたのは誤りだ。北朝鮮は、これからこの合意書を根拠にしてNLLの近海でいくらでも挑発が可能なのだ。これを証明するかのように、北側は2007年5月から「第3次の西海交戦の勃発」云々しながら、我々を数回脅迫までしている。そして北朝鮮船舶が昨年26回程度NLLを侵犯し、この中の5回は南北頂上会談の直後にあったことだ。
では、この時点で北朝鮮は本当に挑発をするだろうか。答は、いつもより可能性が多い。金章洙長官の警告を無視してはいけない。彼は、最近まで北朝鮮に対しての最新の情報と兆候警報をすべて知っていた国防の最高責任者であった。特に、北朝鮮の金鎰喆の侵略野心を看破して戻った人だ。金鎰喆は現役(次帥=副元帥、海軍)として、延坪海戦(1999年6月)と西海交戦(2002年6月)を直接構想し挑発を指揮した張本人だ。
金鎰喆は、1998年9月に人民武力部長に任命されたが、その前に海軍司令官(海軍参謀総長)を17年間も歴任した海軍戦略家だ。東海艦隊司令部の参謀長として1968年に米海軍の情報艦(プエブロ)を奇襲攻撃して拿捕した時、大きな役割をなし、1970年東海艦隊司令官に電撃抜擢された。非常に好戦的で攻撃的という人物評だ。彼は人民武力部長になるやすぐ「西海NLLの無力化・紛争化」に着手した。
金章洙(キム・ジャンス)長官が退任直前に危険性を警告したことは、国家安保の次元で非常に幸いなことだ。これから私たちがこの問題に対して備えれば良いのだ。ただ、3月から西海5島の近海ではワタリガニ漁場が形成される。南北の船舶(艦艇、漁船、商船)が互いに近距離で活動するので、武力衝突の可能性が高くなる時期だ。時間が少々差し迫っている。国防部も今回は大きな危機だと判断しているようだ。
軍当局は、3月初めから始まった韓・米連合訓練の「Key Resolve/Foal Eagle」に対し、北朝鮮が激しく反発することに注目している。北朝鮮軍の板門店代表部は、3月2日この訓練と関連し、「高く用意したあらゆる手段を総動員して対応する」という談話を発表した。国防部の高位関係者は「北朝鮮が例年より、強く韓米連合訓練を非難するのは、(挑発の)名分を蓄積する次元でありうる」とし、「軍当局も北朝鮮の挑発の可能性に対して緻密に備えている」と言った。国防部の関係者は、「北朝鮮は韓国に新政府が発足する時ごとに、色々と反応を試してきた」とし、「北朝鮮が李明博政府の保守的な対北政策と、米国との遅々と進まない核協商などの打開策として対南挑発を活用する可能性がある」と言った。彼は、北朝鮮の挑発が、4月の韓国の総選挙、または11月の米国の大統領選挙を控えて行われる可能性があると見通した。
他にも、最近の北側の軍事活動が尋常でない。北朝鮮軍は、ここ3年間、休戦ラインの前方の4個師団(各兵力1万人)を8個の軽歩兵師団(各5000~6000人)に改編した。有事の際、特攻部隊のように敵陣の後方に速かに浸透し、破壊・撹乱作戦を行うか、北朝鮮軍が作戦しやすく韓国側の攻撃目標物を確認する役割を担うという。また、機甲師団も前方へ前進配置した。そして北朝鮮軍の冬季訓練のレベルが注目される。北朝鮮軍が慢性的な燃料不足にもかかわらず、昨年末から始めた地上軍と空軍の冬季訓練の量と質を大幅高め、空軍の場合は例年に比べ訓練量が2倍以上増加した。韓米連合司令官のベル司令官は、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ,2008年2月23日)とのインタビューで、北朝鮮の在来式軍事脅威(現役117万人、先軍政治)の深刻さに対して警告した。
国防部は、このような一連の状況に対して今素早く対応している。新任の李相憙(イ・サンヒ)国防部長官が2月29日就任した。彼は「合参」の作戦本部長、3軍司令官、合同参謀本部議長を務めた作戦通である。就任後初めての公式日程として、翌日(3月1日)に、西海を担当する海軍2艦隊司令部(平沢)を電撃訪問した。指揮統制室に立ち寄り、西北海域においての北朝鮮軍の動向を直接点検した。西海交戦戦跡碑に参拝し、展示された「357号」高速艇も視察し、北朝鮮側が再び挑発してくる場合に備えての決意も確かめた。
李国防長官は2002年の西海交戦の時、合参の作戦本部長として北朝鮮の好戦性や悪辣性を誰よりもよく知っている。3月3日にも、京畿道の中部戦線を受け持つ陸軍第5軍団の最前方警戒所(GP)を訪問、「完璧な作戦態勢を維持せよ」、「(北朝鮮が挑発する)状況が発生すると、現場指揮官が現場で作戦を終結(指揮)することができるようにすべきだ」と強調した。
では、現時点で私たちがなすべきことは何か。
まず、国防部(合同参謀本部)は武力衝突に備えなければならない。
「第3次西海交戦」は過去とは違い規模がやや大きくなるだろう。今度は海岸砲、誘導弾や航空機が追加される可能性が多い。北朝鮮がその間そのような方向で訓練をしてきているからだ。徹底した対応が必要だ。そして海軍は、北朝鮮の奇襲を事前に遮断しなければならない。この数年間、北朝鮮船舶(艦艇など)がNLLを不法に越境しても警告射撃を一発もしなかったのは非常に誤った戦術だった。前の延坪海戦や西海交戦でも、先に警告射撃をしなかったため北朝鮮の奇襲を招いた。
北朝鮮船舶がNLLを越境するとすぐ、南・北海軍間の通信網で警告しながら、遠距離から警告射撃をして追っ払うことが上策だ。そうしてこそ奇襲も予防し、武力挑発も遮断することができる。2004年7月14日に、北朝鮮のトゥンサンゴッ(登山岬)684艇(西海交戦の時、奇襲してきた艇)が西海NLLを越境南下した時、海軍の哨戒艦が遠距離で76ミリの警告射撃(2発)で退治したことは良い事例だ。
そして今度は西海5島に無人偵察機(UAV)と海上作戦ヘリコプターを前進配置して、武力挑発を抑止し、挑発時は完勝できるように準備しなければならない。西海NLLや西海5島の周辺の北朝鮮軍事力は非常に強力だと伝えられている。北朝鮮は近隣の空軍基地に戦闘機を展開し、今回の冬季訓練も実施した。この際、国防部は西海だけでなく、DMZと海岸・川岸など全方位で軍事対備態勢を講じなければならない。南北海運合意(2005年8月)の誤りで、今この瞬間も北朝鮮の商船(政府所属の武装船舶)が、わが領海・NLL・済州海峡を自由に通過している。警戒を怠ってはならない。
二番目、国民は過度に心配する必要がない。
たとえ南北間の武力衝突が発生しても、韓・米連合軍司令部(以下「連合司」)と駐韓米軍があるから、大規模の武力衝突へ拡大しないだろう。米国は「連合司」の作戦計画により、危機の時に大規模兵力を、武力衝突の前から韓半島に自動的に展開することになっているからだ。「連合司」は西海5島の防御を最大の課業として判断し、今も備えている。延坪海戦の時、米国が航空母艦戦闘団を韓半島に急派し、北朝鮮の追加挑発(報復)を抑えた。だから、「連合司」がある限り、韓国民は北朝鮮の武力挑発に対してあまり心配する必要がない。前の延坪海戦や西海交戦の時も国民は心配しなかった。
しかし、問題は2012年の以後だ。「連合司」は2012年4月17日に解体すると、2007年2月の韓・米両国の国防長官会談(金章洙-ゲイツ)で合意したからだ。その以後は、韓国の防衛は、韓・米共同から、韓国が全面的に責任を負うことになる。その以降は、韓国軍事力の9倍もある強大なアメリカの軍事力の即刻的な韓国支援が保障されない。したがって北朝鮮側に隣接した首都圏(ソウル・仁川)と、西海の5島に対する防御に、大きな困難があるだろう。1978年に韓米連合司令部が創設された最も大きい理由は、首都圏と西海5島の防御にあった。「連合司」の解体は、「戦時作戦統制権の韓国単独行使」という自主国防として包装され、国民が分からない間に盧武鉉政権(「参与政府」)が犯した代表的な安保的失策だった。「参与政府」も韓国の政府だったから、盧武鉉政権が犯した誤りは即ち大韓民国国民の誤りだ。すでにバスは立ち去った。後悔してもどうにもならない。
これから連合司令部解体以後にやってくる安保危機に、今から備えなければならない。国家安保は「自主国防」という空虚なスローガンや、「北朝鮮の慈悲」によって守られるものでない。安保は力(軍事力)と国民の惜しまない犠牲をもって守るものだ。したがって国防費の大々的な増強、現役と予備役を北朝鮮レベルまで大幅に拡大、軍隊義務服務期間の延長や国民の戦争準備(対北観の確立、防毒マスクの確保など)を急がなければならない。
今度の金章洙前国防部長官の警告を決して無視してはいけない。多少遅れた感はあるが、金前長官の勇気に拍手を送る。そして李明博政府は、政権初期から対北政策をまともに推進しなければならない。北朝鮮はすでに大量殺傷武器(核・化学・生物武器、弾道弾)や117万の現役兵力を持つ軍事強国だ。虚弱な水準の韓国軍は北朝鮮軍の相手ではない。北朝鮮は軍事態勢を土台に韓半島の赤化統一を推進し、今や自信をもって韓国の生存を威嚇している。
李明博政府はこういう厳しい安保危機を対策なしで臨んではいけない。国民が安保の現実を直視するようにしなければならない。北朝鮮側の威嚇声明に対しては直ちに国民に知らせ、事案ごとに直に対応しなければならない。李明博政府は北朝鮮が昨年「ハンナラ党が執権すると、韓半島には核戦争の暗雲が垂らすだろう」と脅迫した事実を忘れてはいけない。北朝鮮がもし挑発をすると強力に報復し、北朝鮮が戦争を仕掛けると我々も戦争で立ち向わねばならない。経済の回復も重要だが、安保がより急を要する。国を失えば国民は殺され奴隷になる。「平和を望んだら戦争に備えよう」という警句が思い出される。(Konas)
2008-03-05/金成萬(キム・ソンマン、予備役海軍中将、前海軍作戦司令官) |