『よみがえる声』が受賞した文化映画作品賞は、社会・文化・芸術・教育といった教養的な視点から国内で制作された映像作品で、ドキュメンタリー映画や短編など幅広いジャンルを網羅している。
同作は、在日コリアン2世の朴壽南、その娘である朴麻衣両監督が共同制作。広島、長崎の被爆者、長崎軍艦島の徴用工、沖縄戦の元軍属、旧日本軍の慰安婦だった女性らの証言を記録したドキュメンタリー作品。朴壽南監督が40年間撮り続けていた16ミリフィルムをもとに、朴麻衣監督とともにデジタル復元化して制作した。
90歳を過ぎた朴壽南監督は車いすで、朴麻衣監督とともに登壇。朴麻衣監督は「50時間分のフィルムの一部をデジタル復元し作品化できた。まだ40時間分を復元できていないので、受賞を機にデジタル化を進めたい」と決意を新たにした。朴壽南監督は「たいへん光栄でございます」と謝意を表した。
日本映画監督賞の李相日監督は在日コリアン3世。11年に『悪人』で受賞以来、15年ぶり2度目の戴冠となる。在日コリアンとして同賞を2回獲得したのは、故崔洋一監督に続いて2人目となった。
李監督が制作した『国宝』は、吉田修一氏による同名小説が原作。歌舞伎役者の家に引き取られた主人公・喜久雄が芸の世界に身を投じ、すべてを舞台に捧げる生涯を描いた。25年6月に公開され、実写邦画興行収入で歴代首位の200億円を超える新記録を打ち立てた。
李監督は授賞あいさつで、「美しさを追求したいと作品づくりに取り組んだ。人が何を目指し、何に苦しみ、見果てぬ光景にどう向かっていくのか。出演者、スタッフの力の結集が届いた結果の受賞となった」と述べた。
公開された週のランキングは3位だった。「当初は赤字にならなければいいというのが目標だった。しかし徐々に興行成績が上がっていくのを目の当たりにして、とてつもない波が起きていることを実感した。興行収入よりも、1400万人以上の人に見てもらったことの方がうれしい」と喜びを語った。
主演女優賞のシム・ウンギョンさんは『旅と日々』に出演し、韓国人俳優として初受賞した。外国人俳優としても、1993年に『月はどっちに出ている』のルビー・モレノさんが獲得して以来32年ぶりの快挙となった。
シムさんは「俳優という職業は悩み多く難しく感じられ、ときにはやめてしまいたいと思うこともあった」と告白しながらも、「今回の作品を通じて、今後も精進し続けていきたいと思うきっかけになった」と気持ちを新たにしていた。
「キネマ旬報」は19年に創刊され、現在まで続く世界で最も歴史ある映画雑誌。キネマ旬報ベスト・テンは、注目度や影響力から「映画界最高の栄誉」とされる米アカデミー賞授賞式より前の24年に始まり、同賞より1回多く、今回で99回を数える。以降、戦争による中断を挟みながらも継続的に選出され続けている。
 | | | 「2025年 第99回キネマ旬報ベスト・テン」の各賞受賞者。文化映画作品賞の朴壽南監督(前列左端)と朴麻衣監督(後列左端)、日本映画監督賞の李相日監督(後列左から3人目)、主演女優賞のシム・ウンギョンさん(前列左から4人目) |