本書は在日韓国人として生を受け、日本と韓国の狭間で生きてきた著者・権鎔大(クォン・ヨンデ)氏の60年にわたる歩みをたどる一冊である。
「どこに属するのか」という根源的な問いを抱え続けた一人の「在日」が、最終的に「韓国人として生きる」という選択に至るまでの思索と葛藤を描き出している。言語や文化の壁、社会的視線、そしてアイデンティティの揺らぎと再構築の過程が、著者自身の具体的な経験を通じて綴られている。
個人の人生を通して、戦後の在日社会が歩んできた歴史や、韓日関係の変遷が鮮明に浮かび上がる構成となっており、単なる回顧録を超えた「一世代の記録」としての意味合いも強い。
著者は「これは自分一人の物語ではなく、同じ時代を生きた在日の人々の物語だ」と位置づける。
在日母国留学生としてソウル大学で歴史学を専攻した後、アシアナ航空日本本部長や韓日の民間交流の最前線で活動してきた著者の経歴は、本書全体に通底する現実感のある視点と、バランスの取れた韓日認識へと結実している。
本書は「在日」という存在が直面してきた選択と帰属の問題を、個人史と時代史の交差点で描き出した作品であり、次世代に向けた記録としての意義も持つ。
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