北送事業をめぐり、日本の裁判所で被害者救済に向けた重要な判決が出た。1月26日、東京地裁は北送事業で北韓に渡った後に脱北してきた在日コリアン4人の訴えを認め、北韓当局の行為を違法と判断、計8800万円の損害賠償を命じた。北送事業を日本の司法が正面から取り上げ、被害の実態と責任を認定した点で、画期的な判断といえる。
1959年に始まった北送事業は、戦後史に刻まれた人道的悲劇であると同時に、現在の北韓体制と直結する「現在進行形の問題」でもある。
その象徴的存在が、金正恩総書記の実母・髙容姫だ。北送事業がなければ、いまの金正恩体制は生まれていなかった。「地上の楽園」という宣伝を信じ、日本に暮らしていた在日コリアンとその家族、日本人妻などおよそ9万3000人が北韓へ渡った。
しかし現地で待っていたのは、自由のない社会と慢性的な食糧不足、そして国家による厳しい監視と差別だった。在日コリアンは日本というルーツだけで疑われ、重い労働と思想統制の中で声を上げることもできなかった。
さらにこの事業は、当事者本人だけでなく、日本に残った親戚や関係者としての在日コリアンをも長く縛り続けた。
かつての金日成体制は、北韓に送られた親族を事実上の「人質」とし、日本に残る在日コリアンに送金や物資支援を迫ってきた。その過程で、拉致問題を含む北韓の非人道的行為に、直接・間接的に関わらされてきた側面も否定できない。
北送事業は、人々を分断し、沈黙を強いる仕組みとして機能してきた。その検証は、韓半島と日本の関係性の暗部をえぐり出し、見過ごされてきた現実を明るみに出す。
北韓のプロパガンダに拍車をかけたのが、日本のメディアだ。北送船が新潟を出港する59年12月14日付の日刊紙を見てみると、朝日、読売、毎日、そして産経新聞を含む主要全国紙が、北送事業を肯定的に報道していた。産経新聞にいたっては、在日本大韓民国居留民団(当時)の「北送事業反対派」の抗議行動、阻止行動を「悪質な妨害」「テロ情報」と報じた。北送事業を情緒的な「美談」として描き、疑義やリスクの検証を怠っていた。
問題の根源は、イデオロギーの左右ではなく、集団としてのメディアが同調圧力に流され、検証を放棄したことにある。
それにもかかわらず、いまになって北送運動を「左派が煽った」と総括、「左派の罪」に仕立て上げる言説などは、まさに歴史への冒涜であり、卑劣極まりない姿勢と指摘せざるをえない。事実の切り取りで自己正当化を図り、責任の所在を他者に転嫁するだけで、過去の誤りから学ぼうとしていない。都合の悪い史料は見ない、見えないふりをする。その姿勢も批判されるべきだ。
したがって左右を問わず、北送事業の検証は、当時の報道姿勢そのものを問う作業として、決して避けて通れない道である。 |