北韓は2026年の今年、「第9回朝鮮労働党大会」の開催を控えている。5年に一度開かれるこの大会は、金正恩総書記が内外に向けて路線を再確認・固定化する重要な節目となる。その場で金正恩氏は、大韓民国は敵国であり、もはや統一の対象ではないという方針を、これまで以上に明確に打ち出してくるものとみられる。
金正恩氏が韓国との統一を否定し、いわば断韓・拒韓路線を公然と掲げたのは、23年末以降である。24年から25年にかけて、金正恩氏は演説や公式報道のたびに韓国への拒否感をあらわにし、断韓政策が単なる戦術ではなく、戦略的転換であることを示してきた。その姿勢を最も分かりやすく代弁しているのが、金与正・朝鮮労働党副部長だ。昨年秋に起きた「平壌無人機侵入事件」をめぐり、金与正氏は韓国との関係を断ち切る姿勢を改めて鮮明にした。
10日に発表された談話では、韓国から飛来したとされる無人機の領空侵犯を「重大な主権侵害」と断定、再発時には「重大な結果」を招くと警告した。一方で、表現には一定の抑制も見られたことから、韓国側が色めき立った。
一部の韓国当局者は、「非難も一種のコミュニケーション」「対話の余地がある」と解釈、金与正氏が本音では南北対話を望んでいる可能性に言及した。
しかし金与正氏は13日、即座に反発し、緊張緩和や意思疎通は「全部実現不可能な妄想」だと強く否定した。13日の談話からは、韓国に対する強い苛立ちがにじみ出ている。10日の談話で、軍事行為か民間人によるものかを問わず韓国政府に責任があると明言していたにもかかわらず、それを対話のシグナルと都合よく解釈されたことへの反発だ。
とりわけ、「朝韓関係改善」という韓国側の期待を「むなしい夢」と切り捨て、中国や日本を訪問した李在明大統領の外交努力をも皮肉る表現が目立った。
金与正氏の強硬発言は、金正恩氏の断韓路線を忠実に代弁するものだ。同時に、北韓内部で「関係改善への期待」が広がることを未然に防ぐ狙いもある。対話を全面否定することで、住民や幹部の認識を引き締め、韓国を敵とする構図を改めて刷り込む意図が透けて見える。
問題は、金正恩氏の断韓政策を、韓国の保守・進歩の双方がいまだに読み違えている点にある。
進歩陣営は「いずれ統一路線に戻る」という甘い見方に固執、「対話」を唱える以外に有効な手立てを持てず、現実にはなすすべのない立場に追い込まれている。一方で、保守陣営は「北韓は言葉とは裏腹に南侵を狙っている」という時代錯誤の反共妄想から脱却できていない声などが根強い。
金正恩氏が進めているのは、統一を前提とした駆け引きではなく、南北を恒久的に切り離す国家戦略である。この現実を直視できない限り、韓国側の議論は空回りを続け、南北関係は「誤解の上に成り立つ対立」という最も危うい段階から抜け出せないだろう。
高英起(コ・ヨンギ)
在日2世で、北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。著書に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』など。 |