韓国政府は研究開発(R&D)競争力を引き上げるため、「国家科学者」制度を新設する。世界レベルの研究実績を持つ高度理工系人材に好待遇と十分な研究環境などを提供する。政府は世界3大AI(人工知能)大国を目標に掲げていることから、欧米や中国に流れていた高度人材の引き留めは急務となっている。
大統領室が7日、発表した。国家科学者は高度理工系研究者の海外流出を防ぎ、AIなどの分野別に最先端研究者を処遇する制度。R&D予算として過去最大規模の35兆3000億ウォン(約3兆7500億円)を投じて、毎年20人、5年間で100人を選抜する。
大統領の認証書が発行され、年1億ウォンの研究活動支援金が供与される。空港利用時の便宜提供や国家研究プロジェクトの企画権限も付与。所属に関係なく独立して研究できるよう支援する。
海外から人材を獲得する案も示されている。2030年までに2000人を誘致し、韓国国内に定着できる支援体制も整備する。
他に新規人材育成のため、地域AI科学英才学校の新設や、科学英才高校と科学技術特性化大学を連携させる幹部候補育成制度の導入、科学技術院を中心としたAI育成への投資拡大などを進める方針を示した。
韓国政府が高度理工系人材の獲得に注力しているのは、海外流出が深刻になっているためだ。
韓国銀行が3日公表した報告書「理工系人材の海外流出決定要因と政策的対応方向」によると、韓国国内の理工系人材の42・9%が「今後3年以内に海外転職を検討している」と答えている。理由として「年俸など金銭的な要因」が66・7%で最も多く、「研究環境」も大きな割合を占めている。とくに修士号取得者は昇進の機会と研究環境を、博士号取得者は雇用安定性と子供の教育環境を重視している。
実際、理工系博士号取得者で渡米した韓国人は10年の9000人から21年には1万8000人へと倍増している。大学卒以上の人口比でみた米国就業移民(EB1、EB2)ビザ保有者数は、インド、英国、フランス、中国、日本など主要国と比較して最も多かった。リンクトインのデータによると、理工系人材の純流出規模は15年以降、バイオや情報通信技術(ICT)分野を中心に拡大している。
韓国銀行は報告書で「科学技術分野の人材がデジタル転換やAI、先端製造など未来の成長産業の中核であることを踏まえ、理工系人材の海外流出を看過してはならない」としている。
なかでも中国が海外の高度人材を自国に招くためのプログラム「千人計画」を通じ、韓国の科学技術人材を勧誘している。国家情報院の要請を受けて各機関が調査した結果によると、各研究機関の研究者に対し655件のメールが送付されていることが確認された。「国民の力」の崔秀珍議員は6日、「実際に送られた規模は数千人にのぼるとみられる」と述べた。
韓国銀行は報告書で人材流出への対処を「税制、研究開発投資、制度改革を通じ、柔軟で成果重視の給与体系を構築する」と提案している。
大統領室河丁友・AI未来企画首席は「地域主導の研究開発制度を導入し、地方拠点大学の研究力を科学技術院レベルにまで引き上げる」と語った。 |