秋夕の灯火、変わらぬ絆秋の風が実りを運ぶ頃、韓国では秋夕が訪れる。陰暦8月15の満月を祝うこの祭りは、収穫の喜びを分かち合い、先祖の霊を迎える日本の「お盆」と重なる。家族が故郷に集い、この日のために用意された料理を楽しみながら食卓を囲んできた▼今年の秋夕連休は3日の開天節から始まり、最大10日間の長い休みとなる。近年は帰省する人は減り、旅行など個人の娯楽のためにこの休暇を利用する人が多くなった。特に海外旅行に出る人が増えている▼世界は激動の渦中にある。パンデミック後の経済変動、地政学的緊張、気候変動の影。また、人の生活はデジタル化の波に飲み込まれ、AIが仕事を効率化し、SNSがつながりを瞬時に紡ぐ。リモートワークの時代、家族の団らんさえZoomで済ませるようになり、「より効率的、より合理的」が至上命題だ▼伝統の祭りは、忙しさの隙間に「非効率」な贅沢として追いやられがち。帰省の交通渋滞、祖先供養の儀式これらを「無駄」と切り捨てる声も聞こえる。だが、そんな時代だからこそ、秋夕やお盆のような風習は、かけがえのない灯火となる▼祖先の墓前に手を合わせる瞬間、歴史の重みが肩にのしかかり、アイデンティティーを再確認する。効率の名の下に失われゆくのは、こうした「ゆとり」の感性ではないか。世界が速さを競う中、秋夕の満月は静かに囁く。「立ち止まれ」と。家族の笑顔、故郷の土の香り――これらは、AIでは再現できない人間のエッセンスだ。 |