消費の低迷とそれに伴う内需不振に苦しむ韓国経済。政府が切ったカードは「中国人団体観光客のノービザ」と、20年ぶりに開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)だ。この二つのイベントによって数兆ウォン規模の資金が内需市場に流入し、成長率を最大0・2%押し上げるとの期待が高まっている。しかし一方では、その期待が過剰であるとの反論も少なくない。
法務部は先月29日から来年6月末まで、中国の団体観光客(3人以上・15日滞在)を対象にビザなしでの入国を許可した。政府は今回の措置により、中国人観光客100万人を追加で呼び込めると見込んでいる。
10月の中国・国慶節連休や11月の慶州APEC首脳会議を契機に、「ユーカー(中国人観光客)特需」が再現されるとの期待も大きい。
昨年、韓国を訪れた中国人は460万人で、全外国人観光客(1637万人)のうち最大の28%を占めた。政府は今年、536万人の誘致を目標としており、ノービザ効果が加われば来年にはパンデミック前(2019年)の602万人を上回るとの見通しもある。ただし、実際の流入規模は韓中関係など政治・外交的要因によって左右される可能性がある。
事実上の「無制限開放」
今回の中国人ノービザ措置は、全国規模の一般観光客を対象とした包括的開放であり、過去に例を見ない大胆な政策だ。そのため、政治・外交の観点からは「過度な開放」との懸念も出ている。
保守陣営では、中国人による不法滞在や不法就労、ボイスフィッシングをはじめとする各種犯罪の拡大などを懸念し、「国民の安全をカタにした危険な賭けだ」と警鐘を鳴らしている。
政府が最も期待するのは経済効果だ。済州島では既に「国際自由都市特別法」に基づき中国人観光客のノービザを許可しており、全国レベルでは18年の平昌冬季五輪期間中、五輪入場券保有者に限って一時的にノービザが実施されたことがある。
当時、中国人訪韓客は478万人で、前年より14・9%増加し、同年12月には前年同月比で25・2%も急増した。政府は今回も同様の効果を期待し、国慶節とAPECの時期に合わせてノービザに舵を切ったとみられる。
成長率への効果0・2%対0・08%
慶州APEC首脳会議には各国の首脳や企業、報道関係者など数千人が集まる予定で、直接的・間接的経済効果は少なくとも2兆4000億ウォン、雇用誘発効果は2万人に達するとの予測もある。ここに中国人観光客の消費を加えると、4兆5000億~5兆ウォン規模の効果が期待される。単純計算ではGDPを0・2%押し上げる可能性があるという「バラ色」の見通しも出ている。
しかし、これは過大な推定だとの指摘もある。韓国銀行は「中国人観光客100万人が増加した場合、国内総生産(GDP)は0・08%上昇する」と推定している。APEC効果を合わせても0・2%の上昇を見込むには根拠が薄いとの批判を免れない。
また、外国人観光客の消費を「1人あたり230万ウォン」と単純計算するのも現実離れしているとの声がある。
韓国観光公社の資料によると、外国人観光客1人あたりの平均支出額は19年には1239ドルだったが、23年には1002ドル(約138万ウォン)に減少している。
観光業界に高まる期待
それでも観光業界は今回のノービザ措置に大きな期待を寄せている。トリップドットコムによると、昨年の韓国への団体旅行を予約した中国人観光客の数は前年比で357%急増した。今回のノービザ施行により、さらに予約が増えるとの声が上がっている。
ソウル・明洞にある化粧品店の店主は「コロナ以降、団体観光客が途絶えて経営が苦しかったが、最近は活気が戻ってきた。中国人のノービザ措置でさらに客が増えそうだ」と話した。
一方で専門家からは、APECとノービザ措置による効果は景気において短期的な刺激にはなるものの、消費や投資など構造的な問題の解決が伴わなければ「一時的な追い風」にとどまる可能性が高いとの指摘がある。
 | | 3日、ソウル東大門で開かれた「中国人ノービザ反対デモ」。「CHINA OUT」と書かれたプラカードを掲げ、抗議する参加者 |