李在明政権の労働者保護と財閥改革を柱とする政策は、韓国経済の構造変革を目指す一方、企業負担増や海外移転の動きを加速させている。特に「黄色い封筒法」などの労働規制強化は賛否両論を呼び、経済競争力への影響が懸念されている。サムスン電子や現代自動車の海外投資拡大や、日立GLS買収への動きも注目される中、労働者保護と経済成長のバランスが問われている。
李在明政権は、経済格差の是正、労働者の権利強化、国民統合を掲げ、労働者保護政策を推進している。少数株主の権利保護や企業透明性の向上を意図する財閥改革を柱に、財閥の影響力抑制を目指し、取締役選任の投票制度改善や自社株消却義務化などを進めている。これにより、いわゆる「コリア・ディスカウント」(韓国企業の低評価)の解消が期待されているが、韓国経済にとって諸刃の剣とも言える政策といえる。
特に「黄色い封筒法」と呼ばれる「労働組合及び労働関係調整法(以下「労組法」)改正案」が波紋を呼んでいる。8月21日に国会本会議で採決される予定だが、「労働条件に影響を及ぼす事業経営上の決定について労働組合が団体交渉を要求し、争議行為を行うことができるようにする」など、企業にとっては厳しい内容となっている。下請け労組や労働者も元請けの「実質的支配力」が認められる範囲内で、直接交渉を要求したりストライキを行うことができるようになる。
同法案は、労働者保護の観点からは評価できるだろう。だが、企業サイドにとっては大きな負担となることも事実だ。韓国経済研究院の報告(今年7月)によると、黄色い封筒法の施行により、大企業の労務コストが最大で年間2兆ウォン増加する可能性があると試算されている。サムスン電子や現代自動車など、労働組合との交渉が複雑な大企業では、ストライキリスクや労務管理コストの上昇が懸念されている。
財閥企業は、従来から韓国経済の柱でありながら、過度な影響力や不透明な経営が批判されてきた。李在明政権は、これらの企業に対し、公正な競争環境の構築や労働者保護を求める姿勢を打ち出しているが、企業側からはこうした政策が投資意欲を削ぎ、国際競争力を損なうとの声が上がっている。韓国経営者総協会(7月15日声明)は、「過度な労働規制は企業の負担を増やし、海外への投資シフトを加速させる」と警告した。
大手企業の海外への拠点移転が顕著に
こういったなか、韓国経済を支えてきた大手企業が海外へと拠点を移す動きが顕著になっている。さらには本社を移転するのではとの噂も聞こえてくる。
サムスン電子が米国やベトナムでの半導体生産能力の拡大を加速している。米国テキサス州での新工場建設に300億ドル以上の投資を計画し、2026年までの稼働を目指している。また、ベトナムでは既存の生産拠点に加え、AI関連の研究開発施設を新設する方針だ。これらの動きは、グローバルサプライチェーンの多様化や、米中対立による地政学的リスクへの対応とされるが、韓国国内の規制強化も背景にあると指摘されている。
現在、現代自動車も米国、ベトナム、インドでの生産基地拡大を進めている。韓国本社を「マザーファクトリー」として品質管理を維持しつつ、海外工場の現地化を進める戦略を採用。LG電子はメキシコの家電工場を米国に移転する検討を進めている。7日には米ゼネラル・モーターズと車両5種を共同開発し、28年に発売すると発表した。両社は昨年9月、業務契約(MOU)を締結している。 韓日間ではサムスン電子とLG電子が、日立製作所の国内家電事業「日立グローバルライフソリューションズ」(GLS)の買収に名乗りを上げた。すでに行われた1次入札には韓国2社に加え、中国の家電メーカーなど7~8社が参加した模様だ。10月に優先交渉権者を選定、12月には最終的な落札者が決まる見通しだ。サムスンとしては07年、日本の家電市場から撤退して以来、18年ぶりの再挑戦だ。単なる事業拡大以上の意味を持つと見られている。
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