国の最高指導者を選ぶ大統領選挙で、「判決の不服」を訴える事態が続いている。最大野党「共に民主党」の李在明候補は、最高裁を強く批判し、報復を示唆する発言を繰り返す一方で、現行の3審制を4審制に改め、被告人に有利な制度への変更を主張している。保身と政治的な利害を優先するような李氏の姿勢に対し、多くのメディアは沈黙を保っている。
(ソウル=李民晧)
「司法が最後の砦であり最高裁が最終責任を負う。潔白な姿勢で臨まねばならない」。
「共に民主党」李在明候補は15日の演説でこう述べたうえで、「(司法部の)改革は党が主導してやり遂げる」とし、報復の意志を示唆した。
14日の演説でも「(不正をはたらく判事たちを)すべて洗い出し、法廷に引きずり出すべきだ」と述べた。
まるで権力を掌握した独裁者のような発言だ。法治主義を揺るがす行為は、「李在明裁判」中止法によって極まった感がある。
加えて共に民主党は、有罪判決の「自己免責」を可能にする法案、被告人に有利な判決を促すために最高裁判事の増員と「4審制」の導入を盛り込んだ法案、さらに最高裁判所長官に対する特別検察法を設ける法案など、法改正に向けて次々と手を打っている。
これに対し、「国民の力」の大統領候補である金文洙氏は「犯罪者が裁かれないように法律を変えるなど前代未聞だ」と主張した。
さらに金候補は16日、李候補の犯罪疑惑について「(京畿道・城南市の)大荘洞開発でどれだけの人が不審死を遂げ、逮捕されたか。このような人物が大統領になれば、大韓民国が廃墟と化す」と批判した。
「大統領も裁判を受けるべき」
複数の裁判が進行中の李在明候補について、国民の間でも「大統領も例外とせず裁判を受けるべき」との意見が多数を占めている。
韓国リサーチがKBSの依頼により13日から15日にかけ、全国の18歳以上の男女1000人を対象に実施した世論調査では、回答者の60%が上記のように回答し、「大統領の裁判は中止すべき」との回答(37%)を大きく上回った。
もっとも、李候補が次期大統領に当選した場合、共に民主党が進める司法関連法案や公約がそのまま実現に至る可能性が高い。
その場合、立法・司法・行政の三権が一極に集中する事実上の独裁体制が生まれかねない。「李在明派は無罪、反李在明派は有罪」といった極端な構図が生まれ、自由民主主義の根幹をなす法律が機能しなくなるおそれがある。
尹前大統領離党の影響は限定的
他方、非常戒厳の発令により、任期半ばにして再び大統領選挙の実施へと至らしめた尹錫悦前大統領は17日、金文洙候補に対する支持を表明しつつ、国民の力を離党した。尹前大統領は「今回の大統領選挙には韓国の命運がかかっている。全体主義的な独裁を阻止し、自由民主主義と法治を守る最後の機会だ」と強調した。
金文洙陣営は、尹前大統領の離党が保守層の結集と無党派層の支持拡大をもたらすと期待している。一方で、尹氏の支持層が離反したことから、離党の効果は限定的との見方も出ている。
大統領選挙まで残り2週間。有権者の関心は、候補者同士によるテレビ討論会に集中している。
政治、経済、外交、安全保障など各分野での政策・見識が問われる場であり、民主主義と法治主義を守るにふさわしいリーダーを見極める機会でもある。
現在、複数の世論調査で李候補に10~20%の差をつけられている金候補にとっては、逆転を狙うチャンスとすべきだろう。韓国の未来を導いていく大統領を決める選挙は、在外韓国人を対象とした在外選挙(5・20~25日)を皮切りに幕を明けた。
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国民の力の金文洙(左)、共に民主党の李在明両候補(18日の大統領候補者テレビ討論会) |