国民の力による大統領候補の予備選挙は、ブラックコメディーの様相を呈してきた。尹錫悦前大統領の弾劾をめぐり互いに責任をなすりつけ合う一方で、大統領としてのビジョンは見えてこない。保守層の支持を集める韓悳洙首相との一本化に期待を寄せているようだが、与党陣営は泥沼の中傷合戦から抜け出せずにいる。
(ソウル=李民晧)
国民の力は、自党出身の大統領が弾劾された中で大統領選挙を戦うという苦境にある。
候補者らは、極めて不利な選挙戦にもかかわらず、自らの立場を十分に認識しているとは言い難い。予備選は、複数の候補者の中から世論調査によって8人を選出し、さらに4人、最終的に1人を選ぶスポーツのトーナメント方式で実施されている。
しかし、その政治ショーはスポーツのような興奮と熱意とは程遠く、国民の無関心を買っている。その理由は、24・25日に行われた候補者同士の討論で明らかになった。
責任を押しつけあう与党候補者
討論は、洪準杓対韓東勳、金文洙対安哲秀という組み合わせで行われたが、ふたを開けてみれば互いの中傷合戦に終始。尹前大統領の非常戒厳令や弾劾に関する責任論をめぐって激しい応酬が繰り広げられたが、議論のレベルは幼稚な罵り合いに終始した。
洪準杓候補が韓東勳候補を「小うるさい」と非難すれば、韓候補は洪候補を「鼻をくすぐるようなゴマすり」と応酬した。韓候補の不手際が原因で大統領が弾劾された、などと責任を押し付け合い、戒厳令の責任は「大統領に媚びた者たちにある」との指弾も飛び出した。金文洙候補と安哲秀候補の討論でも、弾劾の責任をめぐる諍いが続いた。
韓悳洙氏の一本化へ動き加速か
このようなブラックコメディーさながらの争いの中で、国民の力は今回の大統領選挙初のテレビ演説で「反省」をテーマに掲げた。
「権力に追随する政治が戒厳令のような惨事を招いた。我々国民の力は深く反省し、国民の皆様に心からお詫び申し上げる」
一方で、尹錫悦前大統領との関係については、いまだ立場を明確にできずにいる。賛成か反対か、受け入れるか距離を置くか、その基本的な選択すらできていないのだ。
各種世論調査では、国民の力の主要候補4人を合わせた支持率は約35%にとどまっており、共に民主党の李在明候補の支持率より10~15%も低い。この差は、有権者の国民の力への失望の大きさを物語っている。
保守層の期待を集める韓悳洙首相の出馬も、いよいよ現実味を帯びてきた。30日には韓悳洙氏の著書が出版される予定であり、政治家らしいメッセージの発信も始まった。50年に及ぶ公職経験を生かし、新たな国家運営の青写真を準備しているとされる。
韓首相が出馬を表明すれば、国民の力の候補と一本化する動きが加速する可能性が高い。失われた保守の価値と革新的なビジョンを打ち出せるかどうか。これを欠いては、局面の打開は難しいだろう。
 | | 「国民の力」の大統領選候補者たち。左から安哲秀、韓東勳、金文洙、洪準杓候補
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