本書は、韓半島で理念化されていく朱子学(性理学)の歴史的変遷を描いた、画期的な通史だ。
激動の高麗王朝(918~1392年)末期、元かモンゴルか、宗主国を巡り揺れていた文臣と武臣らの間に二つのグループができていた。のちの朝鮮王朝(1392~1897年)時代、鄭道伝(1342~98年)を開祖とする「崇正学」グループと、鄭夢周(1337~92年)の「士林学」グループは、国家イデオロギーとしての朱子学を、保守と革新それぞれの党派・学閥形成のための道具のように利用した。
世祖・世宗・成宗の黄金期に国政の整備やハングル創製など、初期の朝鮮朱子学の貢献が現代では見落とされていると感じる。だが父・成宗が実母を殺害した事実を知り暴君と化した燕山君は、激しい文明の破壊者になってしまった。以降の学者らは官界・在野に分かれながら「士林学」を朝鮮朱子学の正統の座に置き、国家の命運を理念化への邁進に託した―。
まさに内憂外患の時代、朝鮮朱子学の理念化闘争は当時の国際情勢と不安定な内乱の産物であったことが、本書を読むとわかる。今日の韓国政局の混乱にも示唆する点が大きい。
東京大学出版会刊
定価=19800円(税込)
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