北韓(北朝鮮)国内に「新朝鮮」(New Joseon)と名乗る反体制組織が故・金日成主席の石碑に落書きをする動画を公開した。
落書きと言えど、北韓では政治的な重大事件である。新朝鮮は、金日成氏の功績を称える石碑に、刷毛を使い黒いペンキのようなもので、「N」と落書きする動画を公開、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。
石碑には「偉大なる金日成主席は1973年8月19日」「共産主義革命闘士の金正淑(キム・ジョンスク)同志と共に」「9月28日に金剛山(クムガンサン)を訪れた」などの文字が読み取れる。もちろん、北韓においてこうした行為は首領と朝鮮労働党、国家への反逆と見なされ、極刑の対象となる。
碑文は、47年に金日成氏と金正淑夫人が、朝鮮三大滝のひとつの金剛山の九龍淵(クリョンヨン)を訪れたが、その後夫人は病死し、73年に金日成氏が再訪した際に、夫人のことを回顧したというエピソードに基づくものと思われる。
一方、RFAは、これが金剛山の九龍渓谷にある巨岩の仰止台(アンジデ)にある石碑と似ていると指摘している。なお、98年から2008年までは韓国発で行われていた金剛山観光において、仰止台は通過点であった。
北韓での落書き。しかも金氏一家を批判するのであれば、単なる器物損壊の事件では済まされずに、極めて深刻な政治的案件として取り扱われる。
監視カメラの動画の点検のみならず、関連する地域の住民全員が筆跡調査を受けるなど、大々的な捜査が行われる。
容疑者の摘発に至らなければ、捜査機関のみならず、地方政府の上層部のクビが一斉に飛ぶことになるためだ。
新朝鮮の関係者はRFAの取材に対し、国家保衛省(秘密警察)の統制と監視をかわすため、自分たちの規模や活動範囲などを知る者は団体の指導部に限られるとし、活動の詳細については「答えられない」と回答。ただ、「平壌に最もメンバーが多く、北朝鮮国内の主要都市に責任者クラスとメンバーがおり、国家保衛省が把握しているより、メンバーは多い」と主張した。
同団体は2023年3月26日付で声明文を発表し、設立を宣言した。今の北朝鮮は金正恩政権と一部権力者のためにだけ存在するなどとし、金正恩体制の「大掃除」と、北韓人民による自由民主主義国家の樹立を目標としている。
注目すべきは、南北統一をその先の問題としていることだ。
北韓人民は「韓国のような」自由と豊かさを求めているが、だからといって韓国政府による完全統合や統治を求めているわけではない。北韓人民が韓国の尹錫悦氏の戒厳令発令の詳細を知れば「金正恩体制と同じじゃないか!」と思うかもしれない。南北ともども民主主義を目指す闘争はまだまだ続くようだ。
髙英起(コ・ヨンギ)
在日2世で、北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。著書に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』など。 |