韓国教育財団碧〓奨学生として、香港大学大学院で経済学修士を取得。帰国後は外資系企業での勤務を経験することで留学の成果をさらにブラッシュアップし、今年9月には再度、中国の名門である清華大学MBA(経営学修士)への留学を予定している。
朝鮮学校を卒業した両親の影響もあり、初級から高級まで朝鮮学校に通う。
中学生のときに朝鮮籍から韓国籍に。在日4世として生まれ、日本社会で生活しながら朝鮮学校に通うなかで、北韓に渡航する機会も得られた。自らのルーツや教育環境もあり、自然と東アジアの国際関係に関心を寄せるようになる。
筑波大学在学中には、香港中文大学経済学部に交換留学生として派遣される。ここでの体験が「東アジアで最も国際的で、教育研究レベルも高い香港で本格的に学びたい」という動機につながった。
筑波大を2020年に卒業し、その年の8月に香港大学大学院に留学することになった。しかし両親とも会社員であり、実家に金銭的な余裕はない。なんとか留学費用を工面しようと、碧〓奨学基金に応募し採用された。そのときの気持ちを「うれしかった。これで資金面を心配することなく勉強に集中できる」と安心するとともに、「期待に応えるため、留学を完遂できるよう頑張ろう」という責任感をも背負った。
留学した時期は世界中がコロナウイルス禍の真っただ中だった。香港に渡航すると、すぐに2週間隔離された。隔離期間が終わったあとは住まいを探す。世界でも有数の地価の高い香港で節約のため選んだのは、世界中を旅するバックパッカーが泊まるホステルだった。1部屋に2段ベッドが3台置かれた大部屋で留学期間を過ごす。
世界中から訪れるさまざまな人種・国籍の旅人が、次から次へと入れ替わる香港での1年間は思い出深いものとなった。現金を盗まれたこともある。「部屋に置いていた荷物の中の財布から少しずつ現金が減っていた。紙幣の端に自分しか分からない×印をつけておき、ルームメイトに荷物を見せてもらったところ、その中から×印の紙幣が出てきたことがあった」。
大学院ではマクロ経済学、ミクロ経済学、開発経済学、国際経済学などの講義を受講したほか、米国の産軍複合体の研究を専攻した。「高度な経済の知識が身につくとともに、英語力が伸びて今の仕事に生かされている」。
帰国後、日本IBMに勤務し、経営企画に携わっている。外資系なので、米国本社とのミーティングなどで英語力が磨かれている。
「研究だけでなく、実務経験を積みたいと思った。国際機関で仕事をしたいと思っているが、必要とされる財務、予算管理、経営管理などのスキル習得を目指した」と就労の動機を語る。
9月からは清華大学MBAへ留学する。MBAといえば米国という先入観がある中で、中国へのMBA留学はあまり聞かない。
実は米ジョージタウン大学MBAにも合格したが、円安が進んで学資負担が重くなったことで断念した。碧〓奨学基金は一度受給しているので応募資格がない。しかし「これはブルーオーシャン(未開拓市場)かもしれない」という前向きな理由で清華大MBAへの留学を決めた。「同MBA修了者は、中国が中心となって設立したアジアインフラ投資銀行(AIIB)に行く人が多い。また米マサチューセッツ工科大学(MIT)と提携していて教育研究水準も高い」と戦略的視点で捉え、修了後のキャリアアップも見据えている。
現在学んでいる奨学生には「円安で留学機会が得られにくくなっているが、在日同胞は日本からの視点だけでなく、多角的に東アジアを見ることができる。恵まれた機会を生かし、国境を超えて活躍してほしい」とエールを送る。
具体的なキャリアパスは決めていないが「最終的に分断された祖国の問題解決の目途が立つよう貢献したい」と語る。
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