キッシンジャーは、言い続けた。「この報告は今朝、50余件の他の電報と一緒に机の上にあった」と指摘した。CIA代表は業務の未熟を認めた。様々な部署で議論をしながらも、誰も重要さに注意しなかったと述べた。
キッシンジャーは、鋭く指摘。「第一、真昼に中立地域のJSAで正当な任務遂行中の米軍将校が二人も斧によって殺されたことが、米国のプライドをどれだけ大きく損なった事件であったか。実務陣は適切に判断できなかった。第二、挑発に対して発動し得る自衛権の有効期間問題を考えねばならない。自衛権の発動について国際的な有効期間を聞いたことがないが、早ければ早いほど効果的かつ多数の支持が得られるはず。事件発生後、特別な理由なしに対応を遅らせれば効果的な対応のゴールデンタイムを逃す。これらを教訓とせねばならない」
この会議において、韓半島での現状の防御準備態勢であるDEFCON 4をDEFCON 3に上げる事態が発生、CIA代表は「今年は選挙がある年。DEFCONを3に格上げする場合、メディアと米国民がどう反応するか」という意見を出したが、キッシンジャー長官は「構わない。重要なのは、北韓側が二人の米国人を殺し、必ずその対価を払わせねばならないことだ」と言った。安全保障は政治より優先するという原則が強調、適用された。
8月19日午前11時、韓国にDEFCON(防御準備態勢)3が発令された。韓国で現地の状況のため「準戦時状態」のDEFCON 3が発令されたのは停戦協定調印(1953年7月)後初めてだった。韓国国防部長官も30分後、同じ措置を取った。在韓米軍放送は、休暇や外出中の将兵は部隊に復帰するよう放送した。夕方頃、F4戦闘機が韓国に到着し始めた。マニュアルによって全部隊と将兵たちが実戦態勢に入った。北韓側も当然、韓米連合軍のDEFCONの格上げ措置に気付いただろう。
国連軍司令部は19日の午前10時、北側に第379次停戦会談本会談の開催を要請したが、北側は格の低い警備将校会談を提案した。北側の修正提議によって午後4時に本会談場の中では首席代表が参加する本会談が、本会談場の外では警備将校会談が同時に開催された。
国連司側首席代表のプルデン(Mark Frudden)提督(海軍少将)は、北側が米軍将校2人を殺害したことに抗議。金日成の謝罪と、戦死した米軍将校家族への補償を要求した。北側は国連軍側が停戦協定に違反し共同警備区域内に殺人に使われた斧を搬入して事件が起こるようにしたと国連軍側を非難、過去の挑発を話すなどとんでもない主張を続け会談は40分で停会となった。本会談場の外での警備将校会談も北側が無理を言い17分で終わった。
8月19日午後5時、北韓側は準戦時状態を宣布した。彼らの挑発に対する米軍と韓国軍の対応が尋常ではないことを知って取った措置だった。
北側の斧蛮行のとき負傷し龍山の121病院で治療中だった韓国軍兵士3人(チョン・ビョングク兵長、ジョン・ビョンホ上兵、裵ジェボク上兵)は対北膺懲作戦が行われることを知り、病院から出て作戦に参加したいと願い、元所属のキャンプ・キティホクに復帰した。
朴正煕大統領は8月19日、第3士官学校の卒業式での訓示で、「われわれの我慢にも限界がある。(中略)狂犬には棒が必要だ(後略)」と言った。大統領の一言は全国民を奮起させた。
(つづく) |