ロシアがウクライナに侵攻して始まったロシア・ウクライナ戦争発生から一年が経とうとしている。長期化の様相を呈するなか、韓国と北韓が武器を巡り、もう一つの戦争を繰り広げているようだ。
昨年、米当局は北韓がロシアの民間事業会社ワグネルへ武器を輸出したと明らかにした。北韓による武器輸出は国連で禁止されている。さらにワグネルは、ロシア・プーチン大統領の「事実上の私兵」とも称されている。こうした疑惑に対して北韓は「これまでも武器取引はなく、今後もない」と強く否定しているが、韓国デイリーNK取材班は北韓の高位幹部から北東部の羅津港周辺から、ロシアに向けた武器の船積みを行ったという証言を得た。故金日成主席の「新品の武器は輸出しない」という遺訓に基づいて、古い武器を供給したという。いわば「在庫処理」である。北韓は確かに経済的に厳しいが、「自主国防」を標榜し、兵器工場の生産力維持に努めてきた。核兵器開発もそうだが、人民生活の向上とはまったく別のラインで兵器生産のシステムを築いている。理由は6・25戦争(朝鮮戦争)が今も継続しているからだ。休戦中ゆえにいつ何時、戦争が再開してもいいように、金日成・金正日時代から掲げてきた、人民生活より国防力を優先させる国家的思想を金正恩体制も受け継いでいるわけだ。戦車や野砲のほとんどは旧式で、性能的には韓国軍の新型装備とは比較にならないシロモノだが、戦争が長期化するなかで「数の威力」は無視できない。ロシアにとって北韓との武器取引はリスクがあるが、安定した供給源という点では無視できないだろう。北韓にとっても長年の悩みの種である中国依存を緩和させるためにも、ロシアと関係を強化するのは悪くはない。
一方、韓国の武器輸出もロシア・ウクライナ戦争で間接的に存在感を示している。ドイツやポーランドがウクライナへ戦力を供給した穴埋めとして、ポーランドは韓国製K2戦車を980両以上導入を決めた。さらに、韓国からK9自走砲とFA50軽戦闘機、多連装ロケット「天舞」も爆買いしているのだ。韓国がウクライナに武器を直接供給することは今までもこれからもないし、他国を通じて転売することも禁じられている。しかし、韓国のNATO加盟国に対する兵器輸出が、ポーランドの対ウクライナ「供与運動」の一助にはなったといえる。さらに、米国も対ウクライナ供与で激減した155ミリ砲弾の備蓄を補充するため、10万発を韓国から購入したとされる。韓国製が選ばれた理由は性能や価格に加えて「納期」だ。韓国紙ソウル新聞によると「冷戦後、軍縮の流れに逆らいながら、北韓の脅威に対抗するために仕方なく総力戦に備え、重厚長大型の兵器体系に継続的に投資したことが、期せずして結果を生んだ」としている。北東アジアに残された冷戦型のホットスポットが、今はまだごく限定的ながら、ウクライナ戦争の武器供給源になっている現実があるのだ。分断と対立という冷戦構造の負の遺産に苦しめられてきた南北双方が、新たな冷戦とも言われるウクライナ戦争で存在感を示すというのは実に皮肉な話である。 |