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2022年11月01日 11:59
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デイリーNK高英起の「高談闊歩」第30回
北韓、自業自得の覚せい剤ビジネス

北韓の覚せい剤汚染が深刻だ。社会主義国家の北韓でなぜ薬物が蔓延するのか?原因を突き詰めると、故金正日総書記時代から始まった、覚せい剤ビジネスにたどり着く。金正日氏は1992年から、麻薬などの薬物で外貨を稼ぐために、コードネーム「白桔梗(ペクトラジ)事業」を開始した。北韓各地で麻薬の原料が採れるケシを大規模に栽培し、咸鏡南道咸興市のナナム製薬会社などの企業所では「氷(オルム)」と呼ばれるヘロインと覚せい剤が大量生産された。これを朝鮮労働党、朝鮮人民軍(北韓軍)などの傘下の企業が秘密裏に海外へ密輸し、外貨を稼いでいた。
北韓製の覚せい剤は、第三国ルートや海上を通じて日本にも流通していた。筆者が90年代末に中朝国境に留学していたとき、国境付近で北韓と中国の売人が覚せい剤の取り引きをする現場を、自動小銃を手にした中国公安(警察)が摘発する場面に遭遇したことがある。
国家機関も深く関わって製造される北韓製の麻薬や覚せい剤は、中国や日本でも流通したが、中国側の厳しい取り締まりのため、近年はめっきり減少した。これが北韓国内で、薬物が蔓延するきっかけとなる。
麻薬の現物だけでなく、製造方法や原材料も存在するが、売り先はない。となると、自ずと国内に蔓延するようになる。さらに、覚せい剤がどれほどの健康被害を及ぼすのかという意識が低い。医薬品が不足しているため、急病に対処するために微量の覚せい剤が日常的に使われてきた。かつて、船で北韓を逃れてきた脱北者が、少量の覚せい剤を保有していた。このことから密売を疑われたが、実際は風邪薬の代替品として覚せい剤を持ち歩いていたのだ。危険薬物との意識が低いせいか、「ダイエット目的」で覚せい剤を使用する女性もいる。かつて日本でも、同じようなダイエットが流行したことがあった。
また、ミイラ取りがミイラになったというべきか、麻薬を取り締まる保安員(警察)にも中毒者は増加しており、「麻薬中毒の保安員は、ラリッたまま夜間巡回をするので、ヤクザや泥棒よりも質が悪い」と言われる始末だ。日本でも戦後の混乱期から50年代半ばまで、ヒロポンといわれる覚せい剤が乱用されていた時期があったが、今の北韓が似たような状況なのかもしれない。
国内汚染を招いたことから、金正恩総書記は覚せい剤に警戒心をもっているようだ。金正日時代と違って取り締まりを厳しくしたようだが、根絶するにはほど遠く、金正恩氏も頭を悩ませているに違いない。2年前の2020年には、北韓軍第108訓練所後方部傘下の白桔梗農場で、覚せい剤利権をめぐって農場の支配人が公開処刑されるという事件が起きた。北韓覚せい剤ビジネスの近年の実態は不明だが、外貨を稼ぐことから、当局も多少のことには目をつぶっているのかもしれない。
自業自得ともいえる北韓の麻薬汚染は、青少年の間にも少なからず広がっている。金正恩氏は、父・金正日氏から「覚せい剤汚染」という、思わぬ負の遺産を譲り受けたようだ。

2022-11-02 4面
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