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2022年07月29日 11:05
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ノースコリアンナイト~ある脱北者の物語(75)
人民班長と初の話し合い

この7月、私がかなり憂鬱だったのは、猛暑だけのせいではない。北朝鮮では27日を「朝鮮戦争勝利記念日」と名付けている。金日成の数え切れない(?)功績の中でも、2大功績に数えられる「朝鮮戦争勝利」の日を祝うのだ。私はいつの頃からか、私が受けている理解出来ない差別のせいで、この2大功績の日が嫌になっていた。もし「朝鮮戦争勝利記念日」も、8月15日の「祖国解放記念日」もなかったら、毎日当たり前のように繰り返される私に対するいじめはなかったかもしれない、と何の意味もないバカな空想をしていたのだ。
そんな7月に息子が生まれた。とたんに、7月は楽しく大切な月になった。こんなふうに、7月は自分がとても利己的な人間だと悟る月にもなった。
ところが、今年の7月は楽しくなかった。韓国の前政権が、脱北した青年2人を北朝鮮に引き渡す映像が世界に流れたのだ。映像の中の青年が私の甥に重なって見えて、眠れない日々が続いた。韓半島の忌々しい38度線で、昼間から蛮行が行われていたのだ。民主主義、自由、人権を手に入れるためには、日々の戦いが必要だと、改めて感じた。

ドンスの人民班長が戻ってきた。彼女は固まった表情で私をじっと見つめた。でもこのとき、私は自分の感情の変化に気づいた。何となく心も体も柔らかくなっていたのだ。私を睨みつけながら人民班長が口を開いた。
「どうしてここにいるの?」
怒っている声だった。私は返事をしないで人民班長の家族3人を見つめていた。そして私にあたって落ちた本を拾い、人民班長に両手で静かに渡した。人民班長は本を受け取りながら、「ここになぜ来たの?」と繰り返し質問をしてきた。口調が取調官だった。私は「担当保衛員の知人に会ってきました。ドンスの家でお話しをしたいです。よろしくお願い致します」と静かに答えた。
私の敵意のない態度を前にしても、人民班長は「私がなぜおまえと話すの? おまえと話すことは何にもないから帰って」と鋭い声で言うだけだった。初の話し合いはこれでいい。私は3人に深々と挨拶をして人民班長の家を出た。
ドンスの家に向かう階段で職場の責任者と出くわした。責任者はドンスの家に来ていたのだ。私たちはドンスの家に戻った。ドンスの家はドアの先に小さいタタキがあって、その右側に洗面所兼バスルームでもある3畳ぐらいの台所があった。そこに知らない薪が置いてあった。
靴を脱いで部屋に入って、責任者と座った。キム君が「このおじさんが薪を持って来てくれました」と私に伝えた。私が座ったまま「ありがとうございます。助かります」と言うと、責任者は「明日からは出勤して。党細胞秘書(職場の党責任者)が探しているから」とため息をついた。続けて「あの子は生きているの?」とドンスを見ながら聞いてきた。なぜかその質問に涙が出た。責任者が私をそっと抱いた。責任者の冬服に涙と声を吸収させて泣いた。つらさを抑えて来たのだが、責任者の一言で緊張が針に刺された風船のように破れた。
まだ子どもなのに、家庭と社会環境から大人にならざるを得なかったドンスを私と重ねていた。そのドンスが酷い痛みと病気で苦しんでいるのに、大人の私は何もできない。そんな苦しい涙だった。
しばらくして私は涙を拭いた。党細胞秘書と会うのは大嫌いだった。私を苦しめることしか考えない人だというのが、私の党細胞秘書に対する見解だった。私は労働党員ではなく「女性同盟員」で、党細胞秘書は私の直接の上司ではないが管理監督の権限はあった。
責任者に「分かりました。明日から出勤します。ですが党細胞秘書がいないときにドンスの人民班長と急いで会わないといけない用事があるのです」と、お願いしてみた。
(つづく)

2022-07-30 4面
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