ドンスの家にいる私たち6人の中で、話し合いを始めた。(ドンスを除いた)5人は、みな悲壮な顔をしていた。子どもと大人、男性と女性、それぞれの顔に緊張感が漂っている。まず決めたことは、ドアの鍵をしっかり掛けようということだった。そして、たとえば人民班長のように人の家に許可なく立ち入ることができる人たちに対する対応策だ。
私たち6人は、この集まり自体、そして話し合う内容が抱えている危険性を十分に承知していた。ドンスも自分の頼みが、自分だけではなくキム君や私を始め、周囲の人を危険にさらすことを知っていた。私たちは、ドンスが死んだあと彼の母が戻って来る前に素早くドンスの家を手に入れようと画策する隣人と、隣人と手を組んだ人民班長とを何とかしなければならない。
人民班長はドンスの家に出入りする私たちを注意深く見張っていた。そしてドンスの死が間もなくだと察したようだった。ドンスの家の様子をチェックするため、頻繁にドンスの家の前を行ったり来たりしていた。
人民班長の姿が台所の窓越しに見てとれた。人民班長は、私と話したときに出てきた2人の怖い顔の女性たちが中にいることを知っていて、家の中に入ろうとはしなかった。しかし、いつ強制的に入ってくるか分からない。私たちは対策を練る必要があった。組織的な集会ではない、私的な集まりで3人以上が一定時間を送ることは許されていない。問題になるどころか、場合によってはとても危険なのだ。
様々な問題を解決する方法は、ドンスの継父の親戚を探して連れてくることだと、結論がまとまった。ドンスの母の帰りがいつになるのか、まったく見当がつかなかったからだ。
まずドンスと親しいキム君に尋ねた。
「ドンスの継父の親戚を、誰か知っている?」
キム君は「はい」と自信がない声で答えた。私たちは小さく歓声をあげた。勢い込んで「どこに住んでいるの、ここから遠い?」と聞いた。どんな関係の親戚かは関係なかった。クモの糸より細い縁でも、あれば何とかなると思ったのだ。
4人の大人の切ない目を前にしてキム君は唾を飲み込んで、大きく深呼吸した。私は静かな声で「どこにいるの?」ともう一度聞いてみた。キム君はドンスの家で見たことがあるけど、どんな関係の親戚で、どこに住んでいるかは分からないと答えた。前のめりになっていた大人4人の肩が一斉に落ちた。キム君は何も悪いことはしていないのに「すみません」と首をすくめた。それに気づいた私たちはすぐキム君に謝った。
「ごめん、私たちがごめん」
私はまだ申し訳ない顔をしているキム君を横目に、「それでは、やはり人民班長ですね」と皆に告げた。
人民班長は各世帯の名簿を持っていた。その名簿には出生場所から詳しく記載してあるし、毎年内容を更新していた。私たちは、その秘密名簿を閲覧する策について話し合った。人民班長の家族構成など、情報を集めるために役割分担をした。ジョン先生が先に動くことになった。ジョン先生の知人が、隣りのアパートの人民班長の夫だということで、自ら手をあげたのだった。ものごとが大きくなっていく。私の体は硬くなった。ドンスにモルヒネを投与するのは、親戚が見つかるまで延期とした。ジョン先生は、外に人の気配がないときを見計らってそっとドンスの家を出た。
本格的に「悪いこと」は始まった。私はキム君に買い物を頼んだ。ドンスに使う塩と蜂蜜だ。必要な分量と品質の見分け方などを説明した。その細かい説明に友人2人は「あなたが行ってきて、私たちがドンスをみてるから」と言ってきた。私はキム君にお金と買い物袋を渡した。キム君を「悪いこと」に加担させたくなかったのだ。
(つづく) |