北韓は先月、七回ものミサイル発射実験を行った。ところが二月に入ると異例のミサイル「乱れ打ち」はピタッと止まってしまった。理由は簡単。北京冬季オリンピックが開催されたからだ。
北韓のミサイル発射に対して基本的に擁護する姿勢を保つ中国だが、さすがに五輪期間中にミサイルを発射すれば黙ってはいられない。金正恩氏と中国の習近平国家主席は表向きは良好な関係を保っている。金正恩氏もこの時期にミサイルを発射して、習氏の顔に泥を塗るわけにはいかなかったようだ。
とはいえ金正恩氏にとって、二〇二二年の四月は、祖父の金日成主席生誕一一〇周年、父の金正日総書記生誕八〇周年、そして自身の朝鮮労働党トップ(当時は第一書記)就任一〇周年という記念すべき節目の月となる。一月のミサイル発射も、四月を華々しく迎えるための成果の積み重ね、そして祝賀ムードを盛り上げるためだ。
北京五輪の間は、ミサイル発射に関しては収まるだろうとみていたが、金正恩氏は、そうした間でも自身の存在感を示さずにはいられないようだ。
二月一二日、平壌の和盛(ファソン)地区に一万世帯住宅を建設するというプロジェクトの着工式を行い、自ら記念演説を行った。演説では住宅建設が「敵対勢力に下ろす鉄槌となる」と強調。なぜ「住宅建設」が「鉄槌」になるのか。「今、我が国は米国をはじめとする国際社会が外圧を加え厳しい状況下にある。ここで成果を達成すれば、その外圧に勝利したことになる」という北韓独特のロジックだ。言い換えれば、どれだけ厳しい状況下にあろうと、金正恩氏の命令に従わなければ「敗北」であるとしながら、自身の成果作りを正当化し、忠誠を強いる。典型的な全体主義国家、独裁国家の統治理論であるといえよう。
金正恩氏は、着工式にサングラス姿で登場した。サングラス姿で登場するのは初めてではないが、今回の写真を見るに金正日氏に似てきているように思える。
金正恩氏は一〇年の初登場時から金日成氏に似ていると言われてきた。似ているだけでなく、意図的に似せてきた。建国の父でありカリスマ的存在だった金日成氏が、金正日氏より人気があったからだ。年を重ねれば重ねるほど父親に似てくるというのは、よく聞くケースだが、金正恩氏も徐々に父親に似てきているようだ。
金日成氏は一九四五年の解放直後から死去する九四年まで四九年間にわたって、北韓の頂点に君臨した。金正恩氏は、風貌を真似てまで、金日成氏をめざし超越することを目指している。
しかし、顔つきの変化と同じく父・金正日氏(九四年から二〇一一年の一七年間)のような短期政権に終わるのだろうか。住宅建設で米国に鉄槌を下したとしても、金正恩氏の厳しい道のりは続く。 |