「しなやかに闘う女たちに会いに」第3回は、主人公の女たちを取り巻く、男たちの本音に迫ってみたいと思う。
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『滞空女』の主人公、姜周龍は5歳年下の夫、全斌に従い、独立軍に加わる。とはいえ、行ってみると、理想に燃える独立軍であっても、女に求めるのはやっぱり飯炊きだった。失望をあらわにする周龍。ところが独立軍を率いる白狂雲将軍は、そんな周龍の人となりをきちんと見抜いていた。
ある日、白将軍に呼び出された周龍は妊婦に化けて武器を運ぶという、危険極まりない任務を与えられるのである。日本の警官にバレそうになったところをなんとか切り抜け、任務を遂行した彼女は大きな賞賛を浴び、一目置かれる存在となっていく。だが、それは全斌との間に思わぬ葛藤を呼ぶことになる。
女の役割が家事と子育てだった時代に、女が男以上の活躍をすることが、男たちの目にどう映ったか、想像に難くない。同志たちに、妻と白将軍との仲を揶揄されながらも、じっと耐えてきた全斌だったが、それも限界だった。あなたが好きだから、あなたを独立した国に住まわせたい、年上の妻にそう告げた彼の言葉に嘘はなかった。だが言葉とは裏腹に、心に巣喰う焦燥感は大きくなるばかりだった。
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ドラマ『師任堂〈サイムダン〉色の日記』の師任堂は美貌と才能を兼ね備えた名家の令嬢だったが、危険な政争を回避するために、凡庸な男のもとへと嫁いでいく。だが彼女は決して不平不満を口にすることなく、日々を全うしていくのである。引き裂かれた愛する人を守り、自身の暮らしを守るために。長い時を経て再会した男から恨み言を聞かされても、彼女は毅然とした態度を貫き通す。別れた女を忘れられず、無為に日々を浪費する男と違い、彼女には守るべき暮らしがあった。
失意の底にいても、師任堂は家族のために、暮らしを支えようと紙を作り、絵を描く。それはやがて評判を呼び、彼女の名はいつしか都に轟いていく。出来過ぎた妻と、その才能を継いだ利発な子どもたち―ここに来て、夫の存在は家族の絆からはみ出たものになってしまう。熱烈に彼女を愛し、求めてやまなかった結婚だったが、手にしたものは彼には似つかわしくない宝だった。こうしていたたまれずに、低俗な女との浮気に走る夫。夫にとって、師任堂との暮らしはあまりにも気詰まりだった。学もなくたいして美人でもない女との気楽な暮らしで、彼は彼なりになんとかバランスを取っていたのである。
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師任堂も周龍も時代の荒波のなかで、ひたすら懸命に生きただけだったが、それが男たちに与えた衝撃は決して小さなものではなかった。だがやがて男たちも気づいていく。女たちにやりたいようにやらせることで、むしろ自分たちが気楽に生きられるようになることを。
白将軍は周龍に言う。「自分をおさんどんだと言ってしまえば、そう思われる」男も女も関係ない。自分を卑下したら、その通りになってしまうのだ。
青嶋昌子 ライター、翻訳家。著書に『永遠の春のワルツ』(TOKIMEKIパブリッシング)、翻訳書に『師任堂のすべて』(キネマ旬報社)ほか。 |