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2021年12月11日 00:00
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韓国スローフード探訪64 薬食同源は風土とともに
薬食同源の教えと豪快な海鮮鍋

 木枯らしが吹き始めると韓国の海鮮鍋が恋しくなってくる。それぞれの具材から出る旨みは例えようがないほど。そして、これでもか!というほど、たっぷりの具材を見ただけで笑顔になってしまう。
海鮮鍋を初めて食べた時のことは今でも忘れられない。取材の下見で初冬のソウルを訪れた。韓国の本を手掛けるのは初めてのこと。下見には時間をかけた。人気スポットといわれているエリアを歩き回り、夕飯を食べようと滞在先のホテルから近い明洞へ。その当時は韓国コスメショップもなく、飲食店と衣料品店が軒を連ね、通りには屋台や露店がズラリと並び、さらに路地の奥にある飲食店の看板も並んでいた。
その看板の中から、鍋からタコがあふれ出している海鮮鍋の特大のメニュー写真に惹かれて一軒の店へ入った。店内は日本からの常連さんで大賑わい。飛び交う日本語にややホッとしながら、店自慢の海鮮鍋を注文した。
小皿料理をテーブルに運んでくれた店の人が「どこに泊まっているの? ソウルは初めて?」と質問攻め。白菜キムチや大根のキムチ、ナムル、ニンニクの醤油漬け、ポテトサラダ、黒豆など、これだけでご飯が食べられると思ったほどだった。
タコなど海の幸が山盛りの海鮮鍋
 そうこうしているとタコやエビ、白身魚や貝などが山盛り状態の鍋が火にかけられた。海鮮鍋が食べごろになると、店の女将さんがやってきて食べやすいサイズに具材を切ってくれた。切りながら、「海鮮鍋はさまざまな栄養が詰まっているし美容にもいいから。それにキムチやナムルなどのバンチャン(小皿料理)をたくさん食べるのが韓国式。バンチャンはお代わりもしていいから沢山食べてね。野菜や豆類もたっぷり摂らないと身体に悪いから。しっかり食べないと韓国は寒いし、食事は大事」と。そして、「はい、どうぞ。タコも柔らかいから」と言いながら、素早い動きで白菜キムチの容器を持って来るや否や小皿に足してくれた。
具材の旨みが溶けあったスープ。最後は、そこにご飯を入れ韓国海苔を加えた焼き飯。鍋の具材で満腹のはずが、ご飯もしっかりと食べた。美味しかった!と同時に街中の飲食店で食の極意に触れたような感動があった。サービスと言って女将さんが果物を出してくれた時、「初めてだからわからないと思うけど多島海と呼ばれている国立公園があって、海の物ならなんでも美味しいから行ってみて。ちょっと不便だけど店の名前はそこに因んでつけたの」と。
この時「食への関心が高いのですね」と女将さんに話すと、韓国人なら当たり前のことと笑った。この経験から、本取材で訪れた釜山や慶州、済州、ソウルなどでは女将さんの教えから、韓国には薬食同源という考えと陰陽五行の教えが入っているという基本中の基本を把握した上で取材をすることができた。女将さんのおかげである。
数年前の冬、釜山からバスで閑麗海上国立公園の中心となる麗水へ向かった。
閑麗海上国立公園は、慶尚南道の巨済市にある只心島から全羅南道の麗水市の梧桐島までを指す。女将さんから教わった多島海国立公園とも重なる。特に美しいとされているのが60以上の無人島と、30ほどの有人島が大小点在する閑麗水道。今回の目的もまた海鮮鍋。まずは、麗水エキスポ駅から梧桐島へ。橋を渡り島内の散策路を歩き、遊覧船から島を眺め観光を楽しみ待望のランチタイム。目指すは西市場だ。新鮮なタコが大迫力!で迎えてくれる。新鮮さは言うまでもなく、海鮮鍋の味わいはひと味もふた味も違う。来て良かったと思う瞬間である。
この市場もソウルの海鮮鍋の女将さんから教わった。訪れる人に満足して欲しいというサービス精神もまた薬食同源のひとつのように思う。

新見寿美江 編集者。著書に『韓国陶磁器めぐり』『韓国食めぐり』(JTB刊)などがある。

2021-12-11 5面
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