２０２１年９月９日、ＮＨＫが北朝鮮平壌で行われた閲兵式に関するニュースを報道した。世界的に広がるコロナ禍の中で、閲兵式は予想通りノーマスクで行われていた。「万歳」を熱唱させるために、その熱唱ぶりをチェックするためにマスクを着けさせないのだ。
１９４８年９月９日、韓半島の約半分を支配した金氏一族とその側近たちが、その支配地域に名前を付けた日から７３年が経った。その長い間に金氏独裁者たちが一つでも良いことをしたか。完全に冷静かつ客観的に考えることは無理だが、目を軽く閉じて肩の力を抜いて、頭の中で１９４５年から順に追ってみたが、何一つ思い浮かばなかった。
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２月末の北朝鮮東北地方は寒かった。漆黒の闇の中で、北朝鮮で「刀風」と呼ぶ風の音だけが大きく聞こえて、小さい部屋に３人も居るのにがらんとした感じで肩がすくむ。「刀風」とは、頬に風が当たると刀で切られたような痛みが走る風のことで、１時間も当たっていると本当に頬と額が切れてしまう。ひどい場合には３０分で血が出ることもあった。もともと皮膚の栄養状態が悪いところに、保護のためのクリームなどはなく、自然の強い風に人の皮膚はとても弱かった。冬に皮膚の治療をするというと、”おしっこ”を塗って、乾いたらマッサージをするだけだった。
熱が出ているドンスの頬も、久しぶりに温気があるオンドル（床）で寝ているキム君の頬も赤くなっていた。キム君はドンスの面倒を見ていてあまり寝られなかったようだ。大きないびきをかいて寝ているキム君に毛布をかけ直して、ドンスの足の裏から熱を拭き取った。まだ１７歳の誕生日を迎えていない２人をみていたら、涙が流れ落ちてきた。
たまにドンスの手の指が、殺虫剤にやられたゴキブリの脚のように動いた。その動きが何を意味するのか全然わからなかった。ただ、動きがあればすぐにドンスの顔をみたり、手と腕を揉んだりして何か変化がないかを見つけようとした。
アヘンエキスを塗ってから約５時間が経って、腕の患部を覆った布をまくった。少し柔らかくなった患部の周囲を、両手の親指と人差し指でゆっくり力を入れて押した。患部から膿が出た。分泌物が出なくなるまでじっくり押して拭き取った。アヘンエキスを塗ったので痛みは強く感じないはずだ。そこに再びアヘンエキスを塗って、釜で煮て「消毒」した布で覆った。顔から脚まで同じようにしていたら外が明るくなってきた。その時にジョン先生がいらした。
「お疲れ」と言いながら、ジョン先生は腹巻きからアルミ弁当を出した。お礼を言って、お弁当をキム君の毛布とオンドルの間に入れながら、キム君を起こした。がばっと立ち上がるキム君に「驚いた？　ごめん」と謝り、左手でキム君の手を握って、右手で背中を擦りつつ座らせた。（いい子だな）と思った。「ご飯を食べたら手伝ってくれる？」と聞くと、キム君は目を閉じたままうなずいた。
膝に毛布をかけたままで、ご飯を食べさせた。私と目を合わせて気にしているふうだったが「ゆっくり食べて」と声をかけ、釜から湯を持ってきてあげた。
ペニシリン適応検査注射を打ち、ジョン先生はドンスを診察した。「昨晩どうだった？」と様子を尋ねるので、膿を拭き取った布を見せながら全て話した。ジョン先生は体温計を見た。「熱が少し下がった」と聞いて、思わず息をついた。患部を全部見たジョン先生は、乾いた布を準備してくれと言った。ペニシリン適応検査が問題ないということで、普通なら注射で打たないといけないペニシリンを患部に直接塗った。これは効果を最大にする治療方法だった。治療が終わると、ジョン先生は６時間後に来るからと言って帰っていった。
キム君に何回か水を汲ませて、ドンスの熱を拭き取るようにお願いしてから、私は仕事場に向かった。金正日の誕生日後に行われる、記念行事関連思想闘争会議に参加するために。（つづく）