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2021年08月15日 00:00
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キスン便り(第44回)考えるということ

 自分が考えたことが正しいかどうかを検証するには、数学的アプローチが役に立ちます。あるテーゼ(命題、仮説)に対し、逆、裏、対偶が成り立つかを考えます。
例えば朝鮮人はダメだ、というテーゼに対して、逆の、駄目な奴は朝鮮人だ、は成り立つか、を考えます。日本人にもアメリカ人にも飲んだくれて働かない人というのは居ます。ですから逆は間違いです。
次、裏です。朝鮮人でない奴は駄目ではない、というのが裏です。これは日本人でも駄目な人がたくさん居るわけですから、これも正しくありません。
最後に対偶です。ダメでない奴は朝鮮人ではない。これが対偶です。立派な人は朝鮮人にもたくさん居ます。ですからこれも間違いです。つまり初めのテーゼ、朝鮮人はダメだ、というのは間違いだ、ということになります。
以上をまとめますと、AならばBであるというときに、逆、BならばAである。裏、AでないならBではない。対偶、BでないならAではない、が成り立つかを考えれば、初めの理屈があっているかどうかが分かります。私の経験からは、議論の場では、逆が成り立つかどうかを言うだけで大抵の場合は、仮説の真偽を判定できます。なお数学的には、対偶が真実なら、テーゼは真実です。
世の中で一般的に言われているのは、韓国人は党派争いばかりをしているからダメだ。韓国人はヨプチョンだからダメだ。韓国の政治家は目先のことしか考えないから駄目だ。韓国は碌な国じゃない。
これらは全て事実認識を理由にして価値判断を下しています。論理的には大間違いです。ちなみにヨプチョンというのは「葉銭」と書きます。中国の銅銭と比べて李朝の銅銭は質が悪かったので、自分たちを卑下してそう言いました。
事実認識は価値判断の理由にはなりません。ヘイトや多くの在日は、韓国に関するあらゆる事象を認識し、それに批判検討を加えず、認識事実だけで、だから韓国はダメなんだ、と言います。それは違うでしょ、と言いたくなります。
例えばいつかも書きましたが、韓国人には五パーセントの出来損ないが居るから、部品の不良率が高く、まともな製品が出来ないという事実があります。日本人や在日はこの事実をもってだから韓国はダメなんだ、と言います。しかしそれは妥当な結論でしょうか? 日本の方が正しいという根拠は何なんでしょうか? 利益を上げる方法、それは付加価値と言っても良いと思いますが、それは一つではありません。
まともなものを作れないなら、まともなものを作れる日本に下請けに出して、自分たちはより使いやすい製品、格好いいデザインのものを設計すればいいだけのことです。これはアップルがした方法です。アップルがすると賞賛され、韓国がすると否定されるというのが現実です。物を作れなければ人生そこで終わりではありません。できるやつと手を組んで分業すればいいだけの話です。
だから韓国はダメなんだ、という場合、そこには先に結論があるように思います。韓国はダメと言いたいだけで、いいものを作れないという事実認識を元に、どうすれば勝てるか、という発想が完全に抜けています。日本人なら韓国を非難して罵倒して終わりでも、それはそれでいいでしょう。よその国のことです。知ったこっちゃありません。しかし韓国人の一員である在日が日本人と同じ行動パターンをして、韓国を非難し、卑下するだけで終わり、というのは情けない限りです。批判をする者には改善案を出す義務があります。日本人の差別を受け入れて、自分で自分を差別していた過去に別れを告げるべきです。

李起昇 小説家、公認会計士。著書に、小説『チンダルレ』『鬼神たちの祝祭』『泣く女』、古代史研究書『日本は韓国だったのか』(いずれもフィールドワイ刊)がある。

2021-08-15 11面
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