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2021年06月09日 00:00
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古代史万華鏡クラブ 「童話のような伝説<耽羅国>」
第15回紙上勉強会

 今回とりあげるのは耽羅国(13世紀に済州と改名)。476年に百済王に使節が謁見した記録があり、それが半島の歴史書に登場する最初となる。独立国であったが百済↓新羅↓高麗に服属。三別抄の戦いや一時モンゴル(元)の直轄領になるなど、荒波にもまれながら生き延びる道を探した。
 たとえば百済が完全滅亡した白村江の戦い(663年10月)の2年前の661年1月に百済に味方する倭軍の本営、九州の朝倉宮を訪れて倭軍の動きを探り、同年唐に使者を派遣。662年2月には新羅にも初めての使者を派遣するという複雑な動きを見せている。こうしためまぐるしい短期間の動きは国の帰趨を見極めるための外交戦略であり、結局、新羅の勝利を確信して百済への服属を離脱し、唐・新羅連合に加わり巧みに国を守ったようだ。
漢拏山が造りだした火山島は自然豊かで植物は1371種を数える。これは金剛山の824種、日本の箱根の1200種をはるかに越える。2200年前に秦の始皇帝が方土・徐福に海中の三神山(蓬莱・方丈・瀛州)に不老不死の霊薬を求めてこよと、数十艘の船に三千人の童男童女を乗せ送り出した。この話は事実らしいがその瀛州こそ薬草が多い耽羅(以下済州島とも書く)といわれる。
済州島には三多・三無という有名な言葉があるが”三災”もある。「山高くして風災多し。谷深くして水災多し。土薄くして旱災多し」。李朝4代王・世宗が島民の苦難を考え租税を免じる検討をした時の言葉だ。
そんな済州島だが、徐福の話をはじめ伝説の数々は童話のようで好きだ。
田道間守(渡来系)の話がある。垂仁天皇(紀元前後に在位?)が侍臣の田道間守に「常世の国へ行き香薬を探してこい」と命じたが、持ち帰った時には天皇は亡くなっており、悲しみのあまり自ら命を絶ったという話だ。
日本書紀はこの香薬を橘と解説している。日本にも野生種があるが、香りはともかく実自体は酸っぱくて食べられない。田道間守は甘い柑橘類を探して海を渡ったのだろうが、着いた先は済州島であったと思われている。実際この島では36種の柑橘類が育つという。島を代表する密柑は戦後日本から移植されたものを元にしているそうだが、橘の実を介した済州島と日本の実に長い歴史だ。
地中から湧いて出た三人の神人の建国神話も面白い。三人は島獣を獲り、洞窟で生活していたが、ある時流れ着いた箱の中から現れた碧浪国の三人の王女と結婚し島を開拓したという。碧浪国は倭国と解釈されている。倭や半島の天孫降臨や卵生神話と大違いの人間臭い話がユニークだ。
済州島は韓半島・中国・日本の三点を結ぶ位置にある。倭の海人、安曇族は航海と商売に長け、済州島も当然交易拠点であった。
宗像族もいた。航海より潜水漁法を得意とし、済州島の海人と特に濃密な関係があっただろう。平安中期に編纂された法典、延喜式には調として肥前、豊前や三重の志摩からの「耽羅鮑」の記録がある。耽羅鮑は当時のブランド品かと思ったが、どうも耽羅から来た海女が採った鮑ではないかという研究がある。驚くべき二国をつなぐアワビロードだ。
 延喜式には海藻の調もある。海藻を常食する民族は珍しい。韓国でも済州島は本土以上に海藻料理が多い。私もモンクというホンダワラのスープが好きだ。中国の華南(福建・広東省)でも食べるようだが、やはり海藻を好む民族はDNAでつながっているとしか思えない。
今回、耽羅国を勉強して最も興味深かったのは鳥越憲三郎氏の研究だ。例えば△〇□スキーという人がいればその人がポーランドにルーツがあると容易にわかるが、それを耽羅国の王族に当てはめたものだ。
高麗史には周辺の部族からの入朝者の名前が記録されている。耽羅国の王は星を見て航海する海人らしく”星王”というのだが、その星王や王子の名が同じく高麗に入朝した女真族の族長たちと同系であることを発見している。例えば耽羅神話の三神人の名は高乙那・良乙那・夫乙那だが、女真の族長の名に烏乙那や吾乙那というアルタイ系の名を沢山みつけることができるという。
女真族は満州に住むツングース系の民族。高句麗や百済、新羅はこのツングース系の戦闘団が韓族を制圧して建国した国家とみられているのだが、鳥越氏は耽羅国の住民は倭族であったが、高句麗や百済の支配階級が海を渡ってきて実権を握ったのではないかとみている。
あくまで一説だが、済州島にも半島の激動の歴史があり興味はつきない。

(写真上)三多が四多になるかもしれない。済州市は世界に先駆け、もう8年も前に2030年に全島の全車をEVにする方針を決めている。私も国際フォーラムや取材でたびたび訪れた。ガソリン車のない四無も当然達成!? 
(写真下)済州島には古代の支石墓が多い。江華島は北方系で、済州島は南方型といわれ、このスタイルは北九州に伝わっている。墓は民族のアイデンティティ。そのつながりがわかる(写真=韓国民族文化大百科事典HP)

【講師紹介】勝股 優(かつまた ゆう)自動車専門誌『ベストカー』の編集長を30年以上務める。前講談社BC社長。古代史万華鏡クラブ会長。奈良を愛してやまない。

2021-06-09 6面
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