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2020年08月15日 00:00
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キスン便り(第22回) 韓国と日本の相違7

 日本人は実害がなくても、気分を悪くさせたから謝れという、怖らく世界でも唯一の民族だろうと思います。韓国人の中にもそういう理由で謝れという人はたまに居ますが、そういう人たちの多くはクレーマーです。韓国ではクレーマーしか求めないような謝罪を、日本人は求めていることになります。
韓国の会計事務所で、日本の会社が滅茶苦茶に怒っているときには私に呼び出しが掛かります。韓国人は、日本人がどうして怒っているのかが先ず理解できません。私が状況を確認すると日本人の社長や支社長は、けしからん、つまりは俺の気分をどうして悪くさせるんだ、と怒りまくっているのでした。
韓国人は実害がない限り謝りませんし、謝ると損害を賠償させられると思っています。私は取りあえず担当者に、
「先ずは一度謝りなさい」
と言います。しかし担当者は、
「いやです」
と言います。損害が発生してないからです。そこで私は日本人の謝罪には二種類あるという説明を始めます。一つは実害が出た場合で、これは世界共通です。もう一つは俺の気分を悪くさせたから、そのことについて謝れ、という情緒的な謝罪です。混合形もありますが、基本は二つです。韓国人にはこの点の区別が付きません。
怖らく日本人は島国で生きていく知恵として、出来るだけ殺し合いの場面を少なくするために、気分を悪くさせた時点で一度ガス抜きをするのだと思います。お互いが譲り合えば、決定的な殺し合いは避けることが出来ます。だから損失が発生する前の段階で謝罪をし、悪意はないですよ、とアピールしているのです。「すみません」と、何か頼むときに、先に謝罪をするのも同じ発想からでしょう。日本人は未然に争いの種を摘んでおきたいのです。しかし大陸と陸続きで逃げ場がある韓国人には、そんな発想はありません。そこで担当者と日本の会社に出向いて私が、
「この度は、まことに申し訳ありません」
と平謝りをします。情緒的謝罪はどれだけ頭を下げても只です。損をしません。だからしっかりと謝れば良いのです。もし損害云々を言い出すなら、その時は毅然と対応します。しかし情緒的謝罪を求めてくる日本人は、こちらが必死に謝ることで納得してくれます。この点が単なるクレーマーとは、異なります。クレーマーはこちらが頭を下げると更なる謝罪を要求し、土下座まで求めますが、日本人の情緒的謝罪では、悪意がないと分かった時点で納得してくれます。日本人が怒りを収めてくれたら、
「ありがとうございます」
とまたも頭を下げて問題解決です。韓国人の担当者はそれでどうして日本人の機嫌が良くなるのかが分かりません。しかし現実に日本人の機嫌は良くなっているので、
「李先生、ありがとうございます」
と一安心です。
日本の哨戒機へのレーダー照射事件も謝罪方法の文化の差が出た事例です。日本はレーダーを照射されて「気分が悪いから謝れ」と反応します。自衛隊自体は、なぜそんなことをしたのかと聞いている段階でしたが、日本人の国民感情は「けしからん、謝れ」です。しかし韓国人からすると、損害も発生してないのに、どうして謝らなければならんのだ、と日本人が怒っていること自体が理解できません。
韓国が途中から「レーダー照射してない」と言いだしたのは、何を言ってるのか分からない日本人みたいな奴らと付き合ってられない、と思ったからでしょう。つまり韓国人は日本人をクレーマーと見なしてしまったわけです。それで議論を打ち切るために、「知らん」という態度を取りました。完全な文化の行き違いです。平和を持続させるためには、お互いの理解が欠かせません。

 李起昇 小説家、公認会計士。著書に、小説『チンダルレ』、『鬼神たちの祝祭』、古代史研究書『日本は韓国だったのか』(いずれもフィールドワイ刊)がある。

2020-08-15 11面
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