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2020年04月22日 00:00
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韓国スローフード探訪32 薬食同源は風土とともに
大邱のシンプルなカルグクス

打ち立ての麺は、のど越しも最高
 カルグクス(韓国風うどん)は、韓国のどこの街でも食べることができる国民食ともいえるもの。
10年ほど前の初夏、韓国のほぼ中心にあたる大邱を訪れた。目的は、朝鮮時代から続く薬令市とその近くにある薬令市韓医薬文化館韓方医院の取材であった。文化館では体質をチェックしたり、漢方茶をいただいたり漢方薬を入れた足湯の体験ができるなど、学ぶことが多かった。
薬令市を歩けば、漢方材を煎じる独特の匂いが流れ歩いているだけで癒された気分に。そろそろランチタイムをしようかと思い、せっかくだから「知る人ぞ知る」というような飲食店に行ってみようかと。
薬令市付近には大邱の近代化を象徴するレンガ造りの教会や綿花の集荷所となった建物など趣のある建物群と通り抜けると、サラリーマンらしき人が並ぶ人の列が目に入った。だが、店の看板も建物もよくわからず、何の店かはわからず近寄ってみると、「日本のうどんと同じカルグクスの店だよ」と。「昼間はいつも人が並ぶけど宣伝もしていなし、看板も小さいから地元の人にしかわからないかもしれない。麺も作り立てで超オーガニック」と日本語で説明してくれたサラリーマン。勧められるままに彼らの後ろに並んだ。
「韓国の人たちは、並んでまで食べないと聞いていたのだが」と、思いながら順番を待っていると店先では、店主のおばちゃんが巨大な鍋で沸騰させた湯の中にカニに足をどんどん入れているではないか。その様子を見ているとおばちゃんは、カニの旨味が十分に出たところを見計らい、別の鍋に移し店内で調理中の人へと渡す。店内では麺を打っている姿も。
鍋にカニの足をどんどん入れ、旨みをとるおばちゃん

込み合う時間であっても麺の作り置きもせず、その場でやっているのだろうか。そうこうしていると順番がやってきた「空いているところに座って」と、声をかけられるが注文を聞いてくる様子もない。それもそのはずお昼のメニューはひとつだけなのだ。
納得していると、そこに熱々のカニスープではなくカルグクスが運ばれてきた。テーブルには唐辛子やキムチなどが用意され、好みでトッピングしながらいただくようになっている。透明に近いスープ。まずは一口。「なんという旨味なのだろう!」カニと香味野菜が融合している中に打ち立ての麺が、なんとものど越しがいいのだ。唐辛子を加え、キムチを加えると味が一段と引き立ってくる。これは病みつきになってしまう味だ。
ランチタイムの忙しさも終わったのだろう。カニをどんどん大鍋に入れていたおばちゃんがサービスと言って、賄いに作ったパジョン(チヂミ)を持ってきてくれた。「麺はどうだった」と聞かれ、「スープも麺も美味しくいただいた!」と伝えると、「家族が毎日でも食べられるようなものを。という気持ちでやっているだけ。ごちそうではないけど、身体にいいものを使ってね」と。
人を思う気持ちがなければ美味しさは生まれない。シンプルであるがゆえに材料が大切になる。シンプルなカルグクスに料理の基本を見た思いだった。自由に旅ができる日が早く訪れて欲しいと願う。

新見寿美江 編集者。著書に『韓国陶磁器めぐり』『韓国食めぐり』(JTB刊)などがある。

2020-04-22 5面
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