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2020年04月22日 00:00
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ノースコリアンナイト~ある脱北者の物語~29 枯らすと厳しく罰せられる「金日成花」
たんぽぽ


例年、4月15日の金日成誕生祝賀会に際して行われた全ての行事が終わると、組織別思想闘争会が始まる。もっとも重い処罰(=銃殺)を受ける行事は二つあり、一つは特別政治行事期間中に、金日成と金正日の銅像がある区域・公園内でお酒やけんかなどで騒ぎを起こした場合だ。当局は容赦なく「反党反革命分子・最高尊厳に対する挑戦」という罪名で銃殺し、全国に公布した。金氏一族は国民をこのような処罰で脅し、「絶対服従」をさせるが、何故か毎年、わざと反発するかのような人が現れて銃殺されていた。
二つ目は「金日成花」に関することだ。この金日成の名前がついた花を枯らした者は銃殺か政治犯管理所に収監された。
処罰を受けるのは直接、花を栽培する一般労働者だ。花を「金日成花祭典」に合わせてもっとも綺麗な状態で咲かせなかった者は、追放か「革命化」として思想鍛錬期間を設けて革命分子として再教育された。処罰する者は「金日成花」を栽培する企業の幹部たちで、単身で農場・炭鉱・林業など社会でもっとも仕事も環境も厳しい所に一般労働者として配置される。
この幹部たちが来ると、現地の労働者たちは将来を見据えてこの人たちに国のルールを破って諂うが、幹部たちは彼らを「ルール」どおりに酷くいじめた。そのいじめが当局に対する反感からなのかは分からないが、度を越して現地の人とけんかになって死者や負傷者が出たりもした。
いじめなどの卑劣な行為を平気で行う悪人がいるが、北朝鮮当局の宣伝文句によれば北朝鮮には「悪人」はいないはずだ。宣伝文句は、「世界が今まで見たことがないほど偉大なる首領さまの指導下で、我が国民は最高の礼儀道徳を兼備」して首領様の御恩に心から感謝し尊敬しているし、その素晴らしい礼儀道徳で社会がいつも和気あいあいとした「一つの大家族」だとずっと言っているからだ。だが現実は、国と社会に対する不満と憤怒をどこかに吐き出している人たちがいる。国の恐ろしい弾圧の下では自分の内面を隠して、弱い者に向けては、きっかけさえあれば狂ったような行動をする人たちが結構いるのだ。
不条理な北朝鮮社会で叶うことなら人間性を保ちたい、しかしそれができない、国に従わないと生きていけない中で、人は時として狂気に駆られてしまうのを、私は北朝鮮で数多くみた。
「金日成花」は、インドネシアの植物学者が発見したラン科の花を、スカルノ大統領が金日成を欽慕して「金日成花」と献名した花で、北朝鮮のイデオロギー宣伝に利用され、国民を現在も苦しめている花だ。高温多湿のインドネシアの気候に合った植物のため、北朝鮮では栽培がかなり難しい。北朝鮮全国に約300以上の「金日成花温室」を建設し、毎年「金日成花祭典」のために莫大な費用を使っている。金正日は「金日成花は、自主時代の人類の心に咲いた不滅の花である」と発言し、子どもからお年寄りまで財政的・精神的・肉体的な苦痛を与えてきた。今の金正恩も同じだ。
この苦痛の表れとして、北朝鮮ではスカルノ大統領を揶揄する「セリフ」がある。「セリフ」に並べている一つ一つの単語は当局の統制を避けるために悪い意味を持たないものを選んであるが、通して聞くとスカルノ大統領と金氏独裁者らをかなり馬鹿にしている「セリフ」だ。
花の色は濃赤紫色で、他のラン科の植物と同じに綺麗だが、北朝鮮にいるときは一度も綺麗だと思ったことがなかった。日本の花屋にも同じ花があるが、見かけるたびに複雑な気持ちになる。
今年は武漢コロナウイルスによって、北朝鮮恒例の金日成誕生祝賀会が縮小されたようだ。北朝鮮の国民は初めて楽な4月を送るのではないかと思う。(つづく)

2020-04-22 4面
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