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2019年11月13日 00:00
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ノースコリアンナイト~ある脱北者の物語~19 理念も信念もない国の子どもたち
「北送事業」60周年を迎えて

たんぽぽ

 1990年までの見せしめは政治犯管理所入りまたは農村・炭鉱への追放が主だったが、東欧社会主義国の崩壊を機に、銃殺が頻繁に行われるようになった。罪名も国家転覆など重罪が多かった。非社会主義検閲グループ、各種規察隊、保衛部検閲隊など10個を超える検閲隊が街に24時間体制で目を光らせていた。とても怖かった。
身分が悪いと自分や家族が濡れ衣を着せられ銃殺されるかもしれないと、崖の際を歩くような毎日を送っていた。朝、家を出るときには夜に無事に家に戻れるかしらと思いながら学校に通った。2回も死に際まで行ってきた。
1995年ごろからは保衛部、安全部(警察)、規察隊などの牢に罪人を入れられなくなった。配給が止まって自分たちも困っているのに、牢にいる人に食べさせるものはなかった。社会主義を守るための取り締まりが、社会に賄賂文化を定着させるきっかけになっていた。幼い子どもまで権力とお金さえあれば殺人を犯しても罪人にならないことを知っていた。

 この頃、政治犯管理所からも多くの人が出て来た。政治犯管理所の厳しい生活と環境の中で思想的に問題ないと思われる人たちを、知り合いがいない農村、炭鉱、林山部落に配置した。配置地に行って政治犯管理所とそう変わらない生活環境に挫折する人がけっこういたようだった。管理所に入った人たちは大体元幹部で、それまで裕福な生活をしていた。管理所の中にいるときには自分たちは重罪人だから今厳しい生活をしているのだと諦めていたが、外の暮らしには何か良いイメージを持っていたのだろう。それが崩れた時には、一般人より怖い人に変わっていた。厳しい環境でも生き延びて来たたくましさを活かして、あちこちで泥棒などをして騒動を起こしていた。
その中には、前回の連載でも触れたが、幼い頃に自分のせいで家族が政治犯管理所入りになってしまい、7~8年を暮らして家族の誰かを失った子どもたちも何人かいた。15歳未満で学校に通うけれど、けんかなどで周囲が静かな時がないぐらいだった。みんな精神的に病んでいた。
けんかの際に人が死んで、再び捕まって連れ去られる子もいた。連れ去られる15歳の子どものしっかりした落ち着いた態度と目つきに驚いたものだった。いくら幼い頃だったとしても、自分のせいで家族が政治犯管理所に入って命まで落としたのだ。成長とともに自身の愚かさを後悔しても、後悔しきれない気持ちを抱えていたのだろう。むしろ今が楽だと、その子の顔、行動から察することができた。もしかしたら、もう最後になるかも知れない子どもをじっと見ながら見送った。ここで、この国で生まれさえしなかったらと。
こんな残虐な仕打ちを子どもにしても、まったく平気で何の反省もせず、社会の負の部分を誰かのせいにして「見せしめ」の恐怖政治に走っている金氏一族を、国のリーダーとして支えている自分が可哀想で、涙が出そうになるのをこらえるため青空をよく見つめた。
1995年頃から「見せしめ」の次に打ち出した政策が「アダルト本」だった。表紙がない200ページほどのアダルト本が出回ったと、ある程度噂が広がっても取り締まりの気配は見えなかった。北朝鮮で印刷は国家の厳しい管理下にあって、印刷できるところは八つの各道新聞社などで、高位職何人かしか行うことができない。
北朝鮮で一番質の良い紙に印刷されている「主体思想」関連の本は、読まされても綺麗な状態のままであったが、このアダルト本は同じ質の紙なのにボロボロになっていた。どのぐらい多くの人が熱心に読んだかが察せられるというものだ。日々生活は困窮を極めていて、それでも解決策が見いだせない人々の行動・言動が落ち着きのないものになってきた。もはや「見せしめ」の銃声も怖がらなくなって、人々の口から「戦争でも起きないかしら」などと戦争を望む発言も普通に出てくるようになっていた。(つづく)

2019-11-13 4面
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