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2019年03月13日 00:00
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ノースコリアンナイト~ある脱北者の物語~5 保育院に飾られた金日成の肖像画

たんぽぽ

 保育院の初日は、父の友人で保育院を紹介してくれたおじさんの手を握り、道順を教えてもらいながら一緒に行った。一人で通うことになると分かっていたので、道をしっかり覚えないといけない。保育院は家から少し離れたところにあった。建物の場所を記憶しようとして辺りをきょろきょろと見渡しながら歩いて行くと、目的地に到着した。
保育院の玄関では、おじさんから電話をもらった院長先生が満面の笑みで迎えてくれた。院長先生と手をつないで中に入るのを見届けて、おじさんは仕事に戻っていった。
「廊下は右側の壁に沿って走らないで静かに歩きます」そう院長先生に教えられた。廊下を進んでいくと建物の真ん中あたりにホールがあった。正面の壁全体に、金日成が子どもたちに囲まれている絵が描かれていた。金日成は、木の長いベンチに上着のボタンを開けたままのリラックスした姿勢で座り、満面の笑みを浮かべていた。金日成の大きく開いた両腕の中で、開いた脚の上で、足元で、子どもたちが遊んでいる絵を私はしばらくじっと観ていた。
私の家のドアを開けて見える壁の最も高い位置に掛けてある金日成の肖像画とは、違う印象を受けた。肖像画が掛けてある壁には、表彰状などはいいが服などは掛けてはいけない。1カ月に2、3回の頻度で、怖い顔をした検閲員がいきなりやって来る。右手の人差し指と中指で肖像画の枠の上を拭き、さらに持ってきた白い布で肖像画のガラスなど周りを拭い汚れを確かめる。ホコリなどが出たら家人が呼ばれて、強い調子で掃除をするように言って、持ってきたノートになにやら書きつけて帰るのだった。
実家では私が家にいることが一番多かったから、いろいろな検閲員と会ったが、肖像画の検閲員が一番怖かった。アパートが一つの人民班となっていて、班長が検閲員と家々を回って、問題があると班長にも怖い声で怒鳴った。
そんなこともあり、私には肖像画の人物である金日成は会ったことはないが、とても怖い人だという印象があったのだ。その印象とまったく違う大きな絵を前にして、私はなんだか不思議な感覚を覚えながら見入っていた。
院長先生が「毎朝保育院に来たら、最初にこの絵の正面に起立して、次に両手をお腹のへその上に置いて90度腰を曲げ、ゆっくり丁寧に挨拶してから教室に行きます。この前を通る度にそのように挨拶をするように」と言いながら、挨拶の見本を見せ、私にも何回か練習させた。この挨拶をきちんとしないと何かよくないことが起きるような感じが、院長先生の様子から少し伝わってきた。
保育院は、玄関から真っ直ぐの廊下の右側には教室が、その反対側に院長室、事務室、台所、トイレ、備品室などが並んでいた。その真ん中には、床に奇麗な花の絵が描かれていて金日成の絵が飾ってあるホールがある。道路沿いの平屋の建物で、教室が道路側だった。教室の音が道路を歩く人にも聴こえて、子供たちが歌うと窓からのぞき見る人もいた。
奥の教室には子どもたちと担任の先生が待っていて、院長先生が入るとみんな起立した。院長先生が私を紹介して、担任の先生が後ろの机の子のとなりに私を座らせた。2人ずつの机8個が2列に並んでいた。みんな後ろを向いて私を見ていた。すぐに授業終わりのベルがなって、私は助かったと思い大きく息を吐いた。
2時間目の授業は音楽で「あさの国―朝鮮」という歌を歌った。朝日が奇麗でそこから朝鮮と呼ばれたという歌詞から始まって、その国をつくった金日成を高く敬おうという意味で終わる内容だった。
何度か先生と一緒に歌ったあと、前から順番に一人ずつ立って歌うことになった。私の番がきて歌うと、先生がこの歌を前から知っていたのかと聞いてきた。そうではないと答えたら驚いた顔をしていた。
先生の驚いた様子にみんながまた私を見るから、とても嫌で頭を下げて椅子に座った。歌は2フレーズのメロディの繰り返しに歌詞がついた単純なものだった。北朝鮮の歌は宣伝が主な目的なので、覚えやすいテンポに馴染みのある単語が使用されているということを後から知った。
昼食の時間になった。その食事に驚いた。  (つづく)

2019-03-13 5面
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