ニクソン・ドクトリンと朴正熙
米国は、韓半島の統一はどんなことがあっても大韓民国によって行われるべきだとは考えない。米国は、統一後「米国の側につく政府」が韓半島を統一することを望む。北韓は、米国にとってまさにそれが北韓政権だと語る。近年、大韓民国政府には非常に反米的な時期があり、そういう状況は北韓の主張が説得力を持てるまたとない前提条件になる。だから北韓は、何があっても韓国人と韓国政府が反米的になることを望む。最近の北韓の対南戦略目標はそこにあるといっていい。
朴正熙は米国の冷酷さに青ざめたはずだ。すでにわかってはいたが、朴正熙は自ら国防を強化して最悪の事態に備えなければならないと考えた。朴正熙の核兵器開発計画は、このような状況で出たのだ。一方で朴正熙は、米国との同盟の紐帯を決して緩めてはならないという認識も持っていた。
ニクソン・ドクトリン宣言にもかかわらず、韓国がベトナムに5万人の韓国軍を維持したのは、米国が韓国からの米軍の撤収を簡単に決定できないようにするための安全装置であり、米国が韓国を放棄できなくする最小限の保障装置であると考えたからだった。
朴正熙の対米戦略は今、われわれに特別重要な教訓を残している。米国の覇権時代になった今、米国は中国の挑戦に対応するための方策を講じている。戦略的に中国の挑戦に対応するため、米国にとって最適な国は北韓だ。北韓は中国と国境を接している戦略上の要衝だ。このような戦略状況で、米国の目標は北韓を米国側に立たせることだ。そして北韓は、自分が韓半島統一の主役になれるなら、快く米国の側に立つだろう。
北京大学の喬禹智教授は、中国の最大の失策は北韓の核武装を阻止できなかったことだが、より大きな失策は、核を保有した北韓が米国と取り引きすることを阻止できずにいることだと嘆き、結果、東北3省にいる3億の中国人が北韓の核兵器の前で震えることになるかもしれないと警告した。地政学的に見たとき、北韓と中国は決して真の友人になりえない。その現実を正確に認識した分析だ。
ニクソン・ドクトリンの大戦略的な側面と、北韓の大戦略を正確に見抜いていた朴正熙の戦略的知恵が今、米国が覇権国になった時代の大韓民国にとって強く求められているといわざるをえない。
道徳主義者カーターの大統領就任
米国大統領の中で最も道徳的な政策を好んだ大統領は、第33代大統領のジミー・カーターといえる。外交政策では優れた業績を残したが、国内政治と道徳の側面では米国史上最大の汚点を残したニクソンの後任がカーターだ。ニクソンはウォーターゲート事件で職を辞した大統領として知られる。再選の選挙運動中、ニクソン(共和党)の選挙員がライバルの民主党選挙運動本部があるウォーターゲートビルに潜入し、民主党の選挙戦略を盗聴した事件である。つまり不法な方法で大統領に当選したため、ニクソンは弾劾の危機に立たされ、自ら大統領職を退いた。副大統領だったフォードが大統領職を引き継いだが、共和党は道徳的に堕落したという批判を浴び、新道徳主義を標榜したジョージア州知事、カーター(民主党)との大統領選で勝てなかった。
カーターの道徳政治は、当時の米国の雰囲気のなかで国民に受け入れられた。問題は、カーターの道徳主義が国際政治にも適用されたことだった。カーターは、米国が「国家利益」に基づいて世界の問題に介入すべきではなく「道徳的基準」によって、世界問題に介入すべきだという立場をとった。
カーターの道徳主義の外交政策によれば、米国が世界にある多くの独裁国家を支援するのは、正しいことではなかった。米国は独裁国家を支援してはならず、独裁国の指導者を叱るべきだというのがカーターの立場だった。
朴正熙は当時、ニクソン時代から続いていた米国の海外介入縮小およびニクソン・ドクトリンによる国防費の増加と安保状況の悪化という負担に戦々恐々としていた。特に、米国が中国(当時の中共)と和解しはじめたという事実は、米国だけを信じていた反共国家の韓国にとっては戦略的に歓迎すべきでない状況だった。
(つづく) |