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2019年02月06日 00:00
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韓国スローフード探訪7 薬食同源は風土とともに
北村韓屋でいただく伝統の双和茶
風情豊かな北村韓屋
朝鮮王朝時代の面影を色濃く残すソウル鍾路地区。景福宮をはじめ昌徳宮、昌慶宮、宗廟、徳寿宮、雲
峴
宮など数多くの歴史的建造物を見ることができ、韓国を代表する観光スポットになっている。散策に向く場所も多く、朝鮮時代に高級官僚の住いがあった地域とされる北村一帯には、瓦屋根と骨太の無垢材で造られた韓屋を見ることができ、現在でも住宅地とされている。韓屋は緩やかな傾斜に軒を連ね、その風景は韓国らしい風情を醸し出し「歩くだけで韓国に来た」と感じる。韓屋の中には、住宅の一部をカフェやショップとして活用しているところも多く、建物の意匠を見ながら一休みできる良さがある。
寒さが厳しい1月。雪が降ると坂道が多い北村一帯は難儀するが、幸いにも晴天に恵まれ例年よりも気温も高く散歩日和。午前中の清々しい空気の中、景福宮から三清洞を横切る。北村散策の楽しみにしているのが伝統茶をゆっくりといただくことだ。お気に入りの店が3カ所あって、いずれも韓屋を活用したところ。
20年以上も前のこと。最初にソウルの仁寺洞で店の看板にあった「伝統茶」という文字を目にし「老舗のお茶屋さん。それにしてはお茶を売る構えはしていないし」と不思議だった。
店に入りメニューを説明してもらうと、ナツメ茶、ショウガ茶、高麗人参茶、モガ(かりん)茶、オミジャ茶、シッケ、ユズ茶、梅茶、トゥングレ(アマドコロの根)茶、緑茶、双和茶などがあった。「これらが伝統茶なのか」と。茶葉を使ったものから、穀物、果物、薬用植物というか漢方薬に使われているものまで、すでにお茶の範疇ではない。その時に双和茶を頼んだ。漢方薬のような色と匂い。飲んでみると苦いのだが、ほのかな甘さもある。ゆっくりと飲んでいると、ジワジワとお腹のあたりから温かくなってくるようだ。
10種類以上の漢方を使った双和茶
温かい飲み物だからだろうと思っていたが、じんわりと何となく身体全体が落ち着いた感じがしてきた。店の人によると、白芍薬、桂皮、甘草、生姜、ナツメ、当帰など10種類以上の漢方材を使っていること。韓国では漢方ではなく韓方ということ。伝統茶は朝鮮時代に国民の健康維持と未病のために広まったことで、薬食同源の国と呼ばれる所以のひとつであることなどを知った。
それ以来、疲労回復と風邪の予防には双和茶と決めている。2時間ほど散策し、この日も双和茶を飲むことにした。門をくぐり、靴を脱いで店内へ。中庭を囲むように座席がある。一枚板のテーブルと座布団は数カ月前と同じだが、今日はオンドルの温かさがお尻から伝わってくる。ホッとしているところに双和茶が運ばれてきた。ひと口飲んだ。いつも以上に、器に浮かせた松の実とクルミが香ばしい。ほろ苦さとかすかな甘さ。それに松の実とクルミがアクセントになって、ほっこりとしてくる。
「身体に効いている」と思いながら、噛みしめるように飲んだ。寒さで緊張した首のあたりもほぐれたように思う。きっとオンドルと双和茶で血の巡りが良くなったのだろう。自然に顔もほころんできた。
新見寿美江
編集者。著書に『韓国陶磁器めぐり』『韓国食めぐり』(JTB刊)などがある。
2019-02-06 5面