柳根瀅
高徹 訳/馬瑞枝 画
暫くして、まさ子が沈黙を破った。
「両家のお母様に、あたくしから申し上げたいことがございます。娘に去られるお母さんも、息子に去られるオモニムも、寂しさは同じでございます。それで、あたしは実家の母のために一年間実家暮らしをしながら、週に一度は柳さんのオモニムのところへ仕えに行くことを約束します。ね、お母さん、いかがですか?」
まさ子の母は、娘の言葉に満足したのか、無言で私の母の態度をしきりに窺っていた。
「ああ、そうしなさい。賢いおまえの言うことに反対する人などいるものですか」
やっと、座中は安心したようであった。事がうまく運んだから早く出発しなさい、と主人がまた急き立てた。
主人の七人兄弟から五〇円、まさ子の母から七〇円の祝い金が入り、朝鮮人からは、母に対して五円が入った。旅費に使えと、まさ子の母が三〇円を出してくれた。
人力車に乗り、私たちはソウル駅に行った。私たちは改札口に向かった。主人、古沢、母、まさ子の母が見送りに来ていた。
二人は夕方の五時頃目的地に着き、「新井館」で旅装を解いた。暫く座ってタバコを吹かしていると、女中が寝巻きを運んできた。
「お着替えください」
「お風呂に入る?」
「そうしよう」
まさ子が先に着物を脱いで湯舟に入った。私も風呂に入った。
「あら、あたしったら、さっきはあなたを誘おうと思って、急いで入ったから、かけ湯することもすっかり忘れていたのよ」
「そんなことはどうでもいいじゃないか。さあ、入っておいで」
「ホホホ、ごめんなさい」
まさ子が湯舟に入ってきた。私は彼女のふっくらした頬を手で挟んで揺すってみた。
「揺すっても倭女よ。何をそんなに」
「倭女がそんなに嫌か?」
「今あなたがあたしの頬っぺを掴んで揺するから、思い出したのよ。ところで、どうしてあたしの夫になったの?」
「これはまた、何ということを?」
「あなたの口から先に出たのよ」
「ぼくの口から? ぼくがいつそんなことを言ったのかな。覚えていないな」
「それじゃ、あたしから言わなくてはだめ?」
「うん、言ってみな」
「よく思い出してね」
「うん、言ってみな」