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2017年04月05日 04:46
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脱北帰国者が語る 北の喜怒哀楽
政治犯収容所の解体(5)

木下 公勝

政治犯の子どもにも課せられた重労働

 今も脳裏から消えないのは、レンガ工場の跡地で見た光景である。倉庫にあった工具の半分以上が子ども用のものだった。鎌にしろ鍬にしろスコップにしろ、柄の長さは大人用の3分の1くらいだった。
すべての農耕具には焼き印で名前が入っていた。握る部分は楕円形にすり減り、3、4本の指の跡まで残っていた。血のにじんだ後もはっきりと見てとれた。小さな少年少女が、酷使されていた証であった。
周囲の隊員たちは「うーん」「ああ」といった以上に感情を表に出すことはなかった。それ以上のことを口に出せばどうなるかは知り尽くしていたからだ。当時の北朝鮮では「短い舌をへたに回すと長い首が飛ぶ」といわれていた。
レンガ工場も大きな建物だった。ベルトは電動で、上下動するハンマーで型に入った粘土を叩いて固める方式だった。一つの枠で二つのレンガが作れるようになっており、機械は3メートル間隔で18台あった。
収容所の子どもたちは、小学校3年生までしか教育を受けられず、簡単な読み書きと計算しかできなかった。思想教育もなかったという。
私の見方であるが、子どもであっても政治犯収容所に入れられた以上、人間としての権利はない。共和国公民ではなく、家畜や奴隷のように絶対服従し、黙々と働き、酷使されて死んでもかまわない。人間扱いの対象ではないのだ。私は工場の光景を思い浮かべると、本当に胸が痛くなる。
次に解体に取り掛かったのは醸造工場であった。数十人の中隊全体が作業に参加した。この醸造工場は、一般的な醸造工場よりも立派だった。
工場内は清潔で、蒸留タンクや連結管、ろ過機、冷却装置、ベルトコンベア、ラベルを張り付ける機械などはソ連製だった。ステンレス製であったため損傷もほとんどなく、丁寧に解体して大型の運搬トラックに載せた。クレーンで移動させるのではなく、機械の下にパイプを並べて転がして外に出し、ジャッキで浮かせて枕木を入れ、再びジャッキで浮かせてという作業を繰り返した。
この醸造所で製造された酒は、輸出にも回されたというが、主に保衛部の宴会に出されたようだ。メーカーも商標も見たことのないものだった。
醸造所の隣にはビール工場があった。機械は東ドイツ製だった。醸造所の解体の次に着手したのがこの工場で、機械類はどこかへ運ばれていった。どちらの工場にも、大きな防空壕のような地下貯蔵庫があった。解体過程で出たゴミはそこに放り込み、土に埋めた。工場から200メートルほど離れた場所には学校や居住区があったが、それは別の市や軍の中隊が解体した。
私たちの中隊がそれまで解体していたのは、いわゆる「B区域」にある建物だった。B区域とは、政治犯の主犯の家族が住まわされる区域である。
政治犯収容所には、罪の重さによって家族を含めた親族も入れられる。そこでは主犯と家族を分けるのが鉄則だった。
主犯が入るのがA区域である。A区域はさらに男女で分けられていた。女性がする作業は軍服の縫製、軍靴の製造、伐採した原木をトラックに載せる作業などだったと聞いた。
ほかの政治犯収容所ではどうか分からないが、この収容所では食事の際に箸もスプーンも使わせなかったという。自殺防止のためだった。
私が解体にあたった政治犯収容所は、広大な範囲にまたがっていた。かつてあった四つの国営農場と、その周辺の集落を解散させて設置されたという。そのため、道内の各所から人員を集めて極秘の解体任務にあたらせたのだと思う。
噂によると、その収容所には3万人ほどの政治犯とその家族がいたという。外とは完全に隔離された世界で彼らが虐待や迫害を受けていたかと思うと、胸がいっぱいになる。話によると、60年代に人民武力相だった金昌奉をはじめ、粛清された多くの著名人がそこに監禁されていたという。
(つづく)

2017-04-05 5面
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