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2017年03月29日 00:00
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脱北帰国者が語る 北の喜怒哀楽
政治犯収容所の解体(4)

 道路工事で私たちをもっとも悩ませたのは沢の水だ。水は道路を寸断して土を洗い流してしまう。技師たちは、直径1・5メートルのコンクリート製の土管を地中に埋めて対処した。
悪戦苦闘しながらも工事を始めて2カ月。中隊長からの指示で、党員だけを集めて運動会を行うことになった。家族も呼んで、国家の祝日に肉体鍛錬も兼ねた運動会をしようということだ。だが、それはあくまでも表向きの理由であった。
わざわざ党員だけを集めたのは、重要な通知があったからである。運動会の翌日から、党員は「特殊作業」にあたることになった。隊の名称は「咸鏡北道K市党員突撃隊」。党員68人が中隊となり、その下に三つの小隊、さらにその下に三つの分隊が置かれた。私はそのうちの一つの分隊長を任された。安全部の踏査管理所代表だったし、最年長者だったからだと思う。
作業は政治犯収容所の解体・整理だった。後で聞いたことだが、解体作業に投入された人員は約400人だったという。作業員は全国から集められていた。党員以外の作業者は、引き続き道路工事をすることになった。
解体される政治犯収容所は、居住区から見て道路工事の現場とは違う方向にあった。道路は幅5メートルほどの整備された道で、往復は比較的楽だった。道路沿いには幅1メートルくらいの沢があった。
歩いて30分ほど経つと、道の両側に大きな花崗岩が並んでいた。「兄弟岩」と称される岩は15メートルほどの高さで、上端は平らに削られていた。上端から3メートルほど下には四角形の銃眼が左右と中央の3カ所うがたれていた。兄弟岩の10メートル先が検問所だった。そこを入れば政治犯収容所である。
収容所の敷地は広大だった。私たちは緩やかな上りになっている自動車道路を20分ほど進み、トウモロコシ畑に出た。畑の中央には3階建ての比較的大きな建物があった。
その日は特別暑かったので、私たちはその建物の中で少し休憩することにした。建物の看板はすでに外されており、もともとどのような建物だったのかは分からなかったが、収容所の事務所のようだった。建物の横には大きな鉄の扉の食糧倉庫があった。
そこから10分ほど離れた場所には平地があり、5、6棟の建物があった。私たちはそのうちの一つ、煙突がある3階建ての建物の前に集合した。出迎えたのは保衛部の指導員だった。
指導員は具体的な作業現場と作業内容、日程を指示した。中隊長が小隊ごとに作業場を振り分け、第1小隊は養鶏場、第2小隊は養豚場、第3小隊はレンガ工場を3日以内に解体せよということになった。がれきの運搬を含め、更地にするところまでが作業範囲だった。
私が割り当てられたのは養鶏場の解体だった。養鶏場は幅約9メートル・長さ80メートルで、同じ建物が4棟あった。私たちの小隊はまず、屋根瓦をはがす作業から始めた。作業は3時間で終わった。小隊内でも分隊ごとに解体する建物が割り当てられていたため誰一人、手を休める暇はなかった。そもそも休憩時間など与えられなかった。
昼食は自動車で現場まで運び込まれ、30分で食事を済ますと再び作業に取り掛かった。砲弾の薬莢をぶら下げた小さな鐘楼があり、その鐘を鳴らして合図にしていた。
午後は屋根板から梁と、上から順に解体していった。がれきや木材は一定の場所に集め、養鶏棚を撤去してブロックの壁をハンマーでたたき壊す作業を半分ほど終えたところで1日目の作業は終わった。予想外に作業ははかどらなかった。
2日目は、半分残っていた壁の解体と鶏糞の始末、そして手を付けられなかった最後の1棟を中隊全員で解体した。
3日目はトラックでブロックを運び出し、がれきを燃やし、井戸を埋めた。そして外部から土を搬入し、形跡が残らないように跡地を覆った。3日間、タバコを吸う時間もなかった。
(つづく)

2017-03-29 5面
 
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