日本人女性、まさ子(二一) 「おまえの気持ちはよく分かった。あんまり興奮しないで。このわからず屋のオモニが体のよくないおまえに、要らぬことを言ってしまってごめんなさいね」 「オモニ、そうじゃありません。オモニはぼくのためを思って言ってくれたのです。この親不孝者のぼくが、オモニの言うことに従わず、申し訳ありませんでした。許してください」 「ああ、しっかりした子だよ。おまえのその気持ちは、朝鮮人なら誰もが見倣うべきものよ。いつまでも変わらず、ずっと皆の亀鑑となっておくれ。これがオモニとしての頼みですからね」 この日も主人が呉さんとまさ子を連れてきた。 「大将、いらっしゃいませ。お陰で、随分よくなりました」 「柳君、もっと休んでいてもよろしいよ」 主人は先に帰り、参鶏湯の準備を終えた呉さんも帰り仕度をした。 「柳君、体に気をつけてよ」 「そうだ、呉さん、ちょっと待って」 呉さんが足を止めて振り返り、にこりと笑った。 「何か? 話でもあるのかい?」 「はい。あのー、窯にいつごろ火を入れるんですか?」 「そうだね。今、象嵌して釉薬を塗っている段階だから、たぶん二、三日以内になると思うよ」 「それでは、明日から行かなきゃいけませんね」 「もう少し休んでいればいいのに」 「家で横になっていると、やたら気になって仕方がないんです」 「そうですか。あの品は全部柳君の手によるものだから、気になるでしょうよ。でも、もう少し休んで、すっかりよくなってから出てくるようになさい」 呉さんも帰った。私が家で静養を始めてからすでに一〇日にもなる。これ以上じっとしてはいられなかった。他人の目にもよくない。重病で床についたのでもなく、もちろん過労から衰弱をきたしたのではあるが、ともかく面子が立たなかった。いつまでもこうして家で床に伏してばかりいられなかった。 次の日私は、工場に出た。あちこちから何人も駆けつけてきて、もう全快したのかと、どうせ休暇をもらった以上もう少し休んではどうか、などと言って気を遣ってくれた。 「柳君、来たのか?」 主人は豪快に笑った。この人はいつも気分のよいときには、気軽な調子で空笑いをするのだった。 「柳君」 「はい?」 「も少し休んでいてもよかったんじゃないのか?」 「大丈夫です。もう体の方も充分回復しましたし、これからは別に急の仕事もないようなので心配いりません」 |