日本人女性、まさ子(八)
「ええ。あの人たちは甘くて薄味のものばかり食べるし、ぼくらの食べ物は辛いものばかりだから、どうしようかな」
「そうね。前もって知ってたら、別に準備しといたのにね……」
と心配そうな表情を見せた。ところが、言葉がよくわからないまさ子は、雰囲気でそれとなく感じたのか、
「どうしました?」
「一緒に食事するんだけど、ぼくの家のおかずはどれも辛いものばかりなんで、オモニが心配してるんだ」
「オモニに、あたしのことは心配なさらないように言って。何でも食べられるわよ」
「辛いものでも?」
「もちろんよ」
「オモニム。ぼくの食べるものなら何でも食べるって言ってるから、心配しないで……」
「そうね。わが家の夏おかずはいつも胡瓜ずくしだから、どうしましょう」
「じゃ、大根漬けのこま切れと、ごま油でも一滴落として出して下さい」
「また混ぜて食べるの?」
「ええ」
夏のおかずはキムチ類の他は胡瓜一色である。オイソバギ・オイカットゥギ・オイセンチュナムル・オイスクチャンアチ・オイチジミ、その他は薬味として使うカンジャンとコチュジャンだけだ。
母が膳を持って入った。私はご飯をよそい、カットゥギ汁とコチュジャン少量を混ぜ合わせた。私が先に一口味わってから、さらに醤油を少し加えた。
「まさ子さん、これ食べてみるかい?」
「ええ、ご馳走になるわ」
「じゃ、こっちへ来なさいよ。一緒に食べよう」
まさ子は一匙口にして、
「辛くっても美味しいわね」
と真面目顔で言った。
「朝鮮の食物は辛くてしょっぱいけど、食欲が出るわね」
「美味しければたくさん食べな。さあ、もう一杯よそおうか?」
膳を間にして座り、睦まじく語り合う姿はまるでお似合いの夫婦のようだった。
「これ、なあに?」
まさ子がコチュジャンを指して訊いた。
「コチュジャン」
「それも食べるものなの?」
「そうだとも。日本語では辛味噌っていうのかな?」
「味は?」
「味? 最高だよ。十人が一緒に食べていて、他の九人が死んでも気づかないくらいの美味しさだって言うよ」
柳根瀅
高徹 訳
馬瑞枝 画 |