高英煥(国家安保戦略研究所首席研究委員)
北韓が口を開くたびにいうことがある。「我が民族どうしの統一」だ。ところが「我が民族どうし」の意味を具体的に見ると、北韓の意図がわかりやすいほどに見えてくる。その意味は大きく二つある。
最初の意味は、北韓が内部住民や外部に宣伝している用語「金日成民族」に見いだせる。北韓はいわゆる「朝鮮民族」を「金日成民族」と呼んでいる。北韓で出版された辞書や印刷物にはこうした言葉が数多く出ていて、北韓のプロパガンダも終始一貫して「朝鮮民族は金日成民族だ」と主張している。
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我が民族どうしの統一を訴える宣伝物 |
これに根拠して「我が民族どうしの統一」を読めば、これは南北韓の「金日成民族どうしの統一」という意味になる。すなわち北韓の「金日成民族」(北韓は1人独裁体制であるため、北韓政府と意見の異なる住民は理論的に存在しない)と、北韓に追従する韓国の親北・従北分子たちとの統一だ。
北韓の「我が民族どうしの統一」の概念の中には韓国の軍隊や警察、公務員、企業、言論、教育者、政治家(当然従北人士は除外)など、韓国の土台を支えている自由民主主義勢力は含まれない。そのためもし北韓が韓国を赤化統一する場合、こうした階層は「打倒対象」になるだけだ。
「我が民族どうし」の二番目の意味は、北韓の統一戦略は純粋に「我が民族どうし、そして平和的に統一しよう」という意味ではないということだ。これは北韓が現在取っている対南戦略、軍事戦略を見ればすぐわかる。
北韓は1960年代から、核兵器開発の野望を抱いており、すでに3回の核実験を行った。核は兵器化されたと評価できるほどだ。
金日成が核を開発しようと思った理由は、朝鮮戦争当時に米軍の核攻撃の恐怖にさらされたトラウマがあったからだ。米国の核の脅威のため、中国軍が戦争を中断しようと考えたと判断しているのだ。
この事実は北韓指導部内では秘密になっていない。金日成は再び韓半島を赤化統一するためには核兵器を開発し、韓半島有事の際に米軍の投入と介入を阻むことが最善の対策だと考えた。そのため核兵器を開発しなければならないと主張し、核開発を始めた。
金正日は2~300万人が餓死した、いわゆる「苦難の行軍」時でも、莫大な費用と物資が必要となる核開発を一時も中断しなかった。これは黄長燁・元朝鮮労働党書記が、全秉浩・軍需担当書記から直接聞いた話として紹介していた。
金正恩は祖父と父の後に従い、13年3月に「核と経済の併進路線」を金正恩時代の基本統治理念に据えた。さらに核保有国であることを憲法に明示した。
金正恩時代に入り、北韓の核兵器庫の中身は増えている。北韓は核兵器を運ぶための中長距離ミサイルや韓国に直接打撃を加えることができる短距離ミサイル、新型長距離砲も絶えず実験し、発展させている。今年に入ってからだけでも、北韓は100回以上にわたって各種中長距離ミサイル、新型発射砲の発射実験を行い、韓国軍と米軍を攻撃するための「戦略ロケット軍」の武力を強化している。
最近では潜水艦から発射する対地ミサイルの開発にも拍車をかけているという情報もある。北韓内部講演資料によると、金正恩が軍幹部らに下した指示で「2015年に、南朝鮮を武力で解放するための聖戦を完成させるように戦争準備を終わらせなさい」と話したという。北韓が本当に「我が民族どうしの統一」を願っているならば、核兵器を開発し、中長距離ミサイルの発射実験を行い、潜水艦戦力を強化して120万の大規模軍隊を維持する理由はない。
「我が民族どうしの統一」をしたいのならば、核開発を中断して長距離ミサイルと300ミリ新型放射砲開発もやめなければならない。120万人に達する世界最大規模の軍隊も縮小しなければならない。このような態度変化もなく「我が民族どうしの統一」を唱えていても、誰が北韓を信頼するだろうか。
北韓は、まじめに約束を履行する意思があることを行動で示し、韓国と話し合って協力しながら、実質的かつ平和的で自主的な統一を成す道に歩みださなければならないだろう。