朴槿惠政権の安保と法治認識に不安を抱かざるをえない。
国防白書に「主敵」と明記されている北韓の核ミサイル実戦配備が秒読みに入っているのに、昨年からの「盧武鉉・金正日会談録政局」は混迷が続いている。
公開された「盧武鉉・金正日会談録」(07年の南北首脳会談時のもの)で、盧武鉉元大統領はNLL(西海上の北方限界線)を事実上放棄する旨の発言を行った。盧元大統領はこれ以外にも北韓を擁護する発言を繰り返した。敵に与する「与敵」行為であり、憲法精神への反逆行為が明らかになった。
元大統領は憲法が命令する大統領としての責務を徹底的に裏切った。しかし、韓国社会には現実として、元大統領の言動を正当化しようとする野党をはじめ、元大統領の言動を反逆と思わない人々も少なくない。
むしろ「従北勢力」と呼ばれる人々は、平壌の指令や煽動に呼応し、会談録を公開した国家情報院が昨年の大統領選挙に介入したと別問題で糾弾し、国情院の解体闘争を執拗に展開している。だが、元大統領の言動を支持するのは憲法に逆らうことであると警告したい。
韓国政府はまず「盧武鉉・金正日会談録」にまつわる諸疑惑の全貌を至急糾明し、反逆行為などの犯罪に対して然るべき法的措置を取るべきだ。それでこそ法治国家である。
ところが朴槿惠政権は、この件に対していまだ断固たる対応をしていない。法治を放棄したような政府の曖昧な態度が、韓国社会の混乱と葛藤を一層拡大させている。
「会談録政局」の最大の原因は、現政権が対北政策の目標、つまり統一に対する哲学やビジョンを提示していないことだ。政府は、平壌から韓国に対してサイバー攻撃が繰り返されても、報復どころか「韓半島信頼プロセス」と開城工団の正常化にばかり執着している。
「韓半島信頼プロセス」の内容は、明確に説明されていない。7月に東京を訪れた統一部職員の説明では、堅固な安保に基づいて南北間の信頼を形成し、南北関係の発展と韓半島の平和を定着させ、統一基盤を構築するのがこの政策の概念だという。そして、北韓の核問題など韓半島の安保危機は、信頼を形成してから根源的解決を追求し、持続可能な平和を築くという。
「目的と手段を明確にすると問題があるため、過程を重視する」と統一部は強調する。そして信頼の形成のため、6・15宣言(00年)と10・4宣言(07年)を含む、今までの南北間のすべての合意を尊重するという。「反憲法的」な6・15と10・4宣言まで守るという「超憲法的」強弁や、政策過程が目標に代わりうるという統一部の発想には驚く。
さらに、「平和統一とは平和的統一でもありうるし、平和と統一でもありうるが、平和と統一のどちらがもっと重要かと言えば、統一より平和がもっと重要でありうる。平和に生きるのが重要ではないか」という。北韓同胞の惨状に目をつぶり、統一より平和を優先させる統一部は「反統一的」だ。
統一部の説明からは、対北政策において憲法が命令する自由統一のビジョンはまったく見られない。ビジョンなき対北政策への国民的合意や支持は、当初から期待するのが無理な話だ。目的も手段もわからず、国力を結集させられるだろうか。国民的合意のできない政策に支持を求めるのはナンセンスだ。
今の韓国社会の不安と混沌は、低級な政治が法治と常識を支配しているためだ。例えば、金章洙安保室長、尹炳世外交部長官、金寛鎮国防部長官など、「10・4宣言」に関与した人士らが現政府の核心ポストに居座っている。10・4宣言は、金日成の高麗連邦制10大施政方針に少し手を加えただけのものだ。
朴大統領が唱える「国民大統合」が、憲法精神に背く勢力とも政治的に妥協することを意味するなら、混乱と葛藤は深まるだけだ。実定法に違反した事件を、政治的思惑で取り繕うことがあってはならない。
韓国の憲法を守る勢力は、政治的野合で国家安保を破壊する行為を黙過しないだろう。 |