「事実上の閉鎖」。北韓政権による北側労働者の一方的撤収命令と、韓国からの労働者・材料受け入れ拒否に端を発した開城工団のトラブルが、稼働停止という結末を迎えた。4月29日には開城に残っていた韓国人労働者が7人を除いて撤収。開城工業団地は稼働を開始した04年12月以来、暫定的な閉鎖手続きに入ることになった。南北当局ともに「閉鎖」という言葉を使っておらず、再開の余地は残っているが、まず北韓が態度を変えない限り、公団が再開される可能性は低い。(ソウル=李民晧)
開城の韓国人労働者撤収により、金剛山観光(現在中断中)が始まった98年以来、北韓地域に在留する韓国人が最も少ない状況になった。
韓国政府は4月25日、北韓に期限を提示して実務者会談を要求。北側が応じない場合は「重大措置」を取ると警告した。翌26日には開城工団入居企業の被害をこれ以上拡大させられないとして「全員の帰還」措置を下した。
韓国政府は入居企業123社とその労働者の救済対策を準備している。また、北韓が開城工団の施設を独自に稼働しようとした場合、韓国側から供給している電力と水の供給を停止する措置を下すことを検討している。一連の過程を総合すると、政府は工団の閉鎖は望んでいないものの、実質的に閉鎖状態になるとみて手順を踏んでいると分析される。
今回の事態は、北韓の金正恩政権に“ブーメラン"になって戻ってくる可能性がある。工業団地の閉鎖は、北韓の挑発的行動から始まった。北韓は昨年末から、対南軍事脅威の強度を高めており、4月3日に突然、韓国人労働者と韓国からの資材搬入を制限。数日後には開城工団で働く北韓労働者に出勤を禁じた。
北韓は開城工団の管理責任を担っている中央特区開発総局を通じて韓国政府に責任転嫁をしたが、50年間の投資保証をした当局間の合意を反故にしたのは北側だった。
北韓は自分で切った対南強攻カードのために年間9000万ドルの外貨収入源を失うことになった。対北国際金融制裁と金正恩機密費の調査が行われている状況であることを考えれば、金正恩は自ら資金源を遮断したのと同じだ。今後の再開のためには、対南謝罪と再発防止策を出さなければならないが、北韓政権の過去の行動を見たときにそうなる可能性は薄い。
二番目のブーメランは、北韓内部での不満爆発だ。実質的な閉鎖の直接の被害者は、職を失った5万3000人あまりの北韓労働者と20万人と推定されている彼らの家族だ。平壌出身の脱北者、金賢錫氏(仮名、11年に韓国定着)は、「開城工団は、出身成分がいい平壌の人々でも勤務希望者が出るほど競争が激しい職場」と述べ、労働者は上流層であるケースが多かったと証言する。今回の事態が北韓の先制措置がきっかけになったという事実も、暗黙のうちに広がっていることが伝えられている。権力に近い工団労働者らのうわさは、内部の厳しい取り締まりでは防ぐことができない。
平壌の権力中枢では、死んだ金正日の遺訓事業である開城工団の閉鎖をめぐる責任の所在追及が繰り広げられる可能性もある。開城工団の設立時にも軍部と統一戦線部に代表される硬・軟派間の対立があったうえ、政権の資金源がなくなったことに責任論争が起きる蓋然性があるためだ。さらに金正恩が韓国の新政権との最初の南北交渉カードで主導権を失ったという側面も加わる。開城工団の実質的閉鎖は、金正恩政権に様々な悪材料として作用する以外ない。 |