李春根
2012年は国際政治構造の変動の年
2011年は全世界的に人類の公敵と言える独裁者たちとテロリズムの首魁が次々に消えた年だった。2月17日チュニジアで始まった「ジャスミン民主革命」は、ただ28日で23年間鉄拳を振るった独裁者のベン・アリー大統領を追い出し、30年間続いたエジプトのム バラク独裁政権は革命開始わずか18日で崩れてしまった。中東の民主化革命は直ちに他の地域へ広がった。5月にはウサーマ・ビン・ラーディンが米海軍特殊部隊によって射殺されたという朗報が伝わり、10月20日には半年以上自国民を爆撃機で爆撃するほどの蛮行で国民の抵抗に対抗した、ニックネーム通り「北アフリカの狂犬」のカダフィが反軍によって凄惨に射殺される(*右写真)ことで40年間鉄拳統治の終止符を打った。2011年が終わるわずか10余日前、ムバラク、カダフィに比べて独裁者としての悪名が全く劣らなかった金正日まで死んで、2011年を世界歴史で独裁者たちが大挙没落した年と記録されるようにした。
2012年は次々に没落した独裁者の後を継いで新しい指導者たちが現れる政治的日程がぎっしり詰まった年だ。北韓はもちろん、中国とロシアに新しい権力が創出される年であり、民主主義国家である韓国と米国でも大統領選挙がある年だ。独裁国家である北韓や中国の次期指導者はすでに内定しており、民主主義なのかが疑わしいロシアの場合、プーチンの大統領当選が有力だ。米国ではオバマ大統領が再選するかどうか予測し難い状況であり、大韓民国の場合も総選と大統領選挙の結果を予測するのが容易でない。ただ一つ確実なことは、2012年は2011年に比べて変化の衝撃がはるかに大きい年になるという事実だ。それで、2012年は国際政治上の構造的変動が起こり得る年と言える。
国際政治の構造変化をわれわれに有利に利用しよう
変化は常に不安定を引起す要因となり、米国、中国、ロシア、北韓、そして大韓民国での政権交替は特に東北アジアの国際政治に大激変を引起し得る要因になる。金正日から金正恩へ権力移動が正常に移行する可能性が低いという事実は北韓の急変事態を予告し、北韓の急変事態は韓半島の激変を予告する。韓半島の激変がもたらす最悪の状況は戦争に準ずる緊張状態になるだろう。反面、韓半島の激変は韓半島の統一という最善の状況をわれわれにもたらす。それでわれわれは韓半島と東北アジアにやってくる激変が韓半島に最善の状況をもたらす契機になれるよう力を尽くして努力するしか他の道がない。
多くの人々が今後北韓はどうなるかと尋ねる。そういう質問は真っ当でない。北韓で起きる出来事がわれわれに対岸の火事のようなものでないからだ。われわれは北韓がどうなるべきか? 北韓がどうなるのがわれわれに良いことかに対して考え合意を導かねばならない。北韓の未来に関する合意は、まさにわれわれが追求すべき戦略目標となる。当然北韓は自由、人権、生存が保障される国に変わるべきで、このために最も速くて良い方法は韓半島全体が自由民主国家に統一されることだ。
もちろん、韓半島の統一が言葉のように簡単なことではない。分断が国際政治的な要因によるものだったように、統一も国際政治的な条件が合ってはじめて可能だ。わが民族が望んで分断されたのではないように、わが民族が願うからと自ずと統一が為される訳ではない。北韓側や大韓民国の「従北主義者」たちがオウムのように唱える「わが民族同士」というスローガンで統一が可能なら韓民族は当初から分断されなかったはずだ。
何よりも東北アジアの地政学的な要因が韓半島統一を阻害する最も大きな要因だ。世界2位を自負する中国は、韓半島を中国の「後頭部に位置する槌」のように認識する。分断された韓半島は中国にとって取ってが折れた槌に過ぎない。中国に威嚇要素にならない。反面、一つになった韓半島は中国を脅かせる。中国の人々がいつも言う「韓半島の安定」という言葉は、韓半島が「南北で分断された状態を平穏に維持される」という意味に解釈すれば良い。中国は韓半島が大韓民国によって統一されることはもちろん、北韓によって統一されることも好ましいと考えない。
中国の浮上で若干の変化が見えるが、日本も韓半島の統一を歓迎しない。日本は韓半島をあたかも「日本の心臓をねらっている短刀のようだ」と認識している。分断された韓半島は折れた短刀に過ぎず日本を威嚇できない。日本は韓半島が北韓によって統一されるのはもちろん、大韓民国によって統一されるのもそれほど気が進まない状況だ。そのような日本の立場が最近変わりつつあるということは韓半島の統一に非常に励みになる。
韓半島の統一への日本の立場が変わるようになった決定的な契機は中国の急速な国力増強の現状だ。急浮上している中国を大きな脅威と感じ始めた日本は、統一韓国と共に中国の力を牽制することが日本の安全を保障する戦略的なことであることを認識し始めしたのだ。
韓半島統一の決定的な変数は米国の対アジア戦略
韓国人政治学者としては初めてドイツの大学教授になった朴聖祚教授(*左写真)は「私にドイツ統一の要因を言わせるとまず米国の支援、二番目が西ドイツ人の経済力、三番目は西ドイツ人の団結力と言いたい。その中でも一番重要なことは米国の支援だ」と言ったことがある。朴聖祚教授はさらに「このことは韓半島統一にもそのまま適用される。特に、米国の支援がなければ韓半島の統一は絶対不可能だ」と断言している。
正しい話だ。中国や日本という世界2-3位の強大国の両国が心情的に反対する韓半島統一が実現するためには中国と日本の統一反対意志を凌駕する巨大な力が必要だ。米国までが韓半島の統一に関心がない場合、韓半島の統一は不可能に近い。ソ連と不安な核の均衡を維持していた冷戦時代には、米国は韓半島が安定を保つのを選好した。統一は変化を意味し、変化はいつでも不安定をもたらす蓋然性がはるかに高いのだ。
ところが、ソ連が崩壊した後、北韓を米国に対する戦略的脅威(strategic threat)と見ない米国は韓半島が統一されるかどうかに大きな関心がなかった。国際共産主義が崩壊した状況で北韓が米国への脅威にもなれなかった。1990年代の前半に該当するこの時期は、大韓民国政府が米国をよく説得し立派な国家戦略を樹立していたら統一を成し遂げられた絶好の機会だった。1994年金日成の死も韓半島に統一の機会を提供した。だが、当時の大韓民国の政権らは統一を追求する代わりに逆に北韓の延命を助けるため忙しかった。
脱冷戦時代に唯一の超強大国として「歴史からの休日(holidays from history)」を楽しんでいた米国は、「9.11」という史上初めての事態に直面した。米国は「9.11」以後世界を以前とは異なる目で見始め、北韓政権を除去、あるいは交替すべき対象として認識し始めた。再び統一を実現できる国際政治構造が形成されたが、「9.11」後の韓国政府だった金大中と盧武鉉政権は顔を顰めながら米国の対北政策に反対した。当然統一は遅延された。すでに崩れた筈の北韓は、韓国政府の支援で延命しただけでなく核兵器まで作って国際社会のならず者として生き残った。
2010年代になってから米国の対東北アジア政策は再び積極的な介入政策に変わり始める。米国がより積極的な東アジア政策を展開することになった決定的理由は、もちろん中国の浮上という国際政治の構造的変動にある。中国の浮上をこれ以上袖手傍観できなくなった米国は、中国の覇権挑戦を制圧する方案を講じ始めた。核拡散の根源地になった北韓も米国の対アジア政策で重要な考慮対象にならざるを得なくなった。
米国の立場で頭の痛い北韓問題を解決する最も良い方法は、まさに自由民主主義国家であり米国に友好的な大韓民国が韓半島を統一することだ。統一大韓民国は直ちに世界10位圏内の中堅強国になれるが、米国は中堅強国である統一韓国と同盟関係を維持することが中国の(米国の)覇権(への)挑戦を牽制する最上の戦略だと考え始めた。2010年秋、米国で行われた世論調査で米国国民の65%が韓国が統一した後も韓国と同盟関係を維持するのが望ましいと答えた。そう答えた理由を多くの米国人が「中国を牽制するため」と答えたという事実は意味深長だ。
過去、米国は日本が強大な時は中国と一緒に、中国が強大な時は日本と共に東アジアの均衡と秩序を維持した。だが、日本と中国はそれぞれ米国と戦争をした国として本質的に信頼が不可能な国だ。今まであまりにも力が弱かったせいで米国のアジア戦略において韓国は深刻な考慮対象になれなかった。
そういう大韓民国を米国が見直し始めたのだ。米国の人々は統一された中堅強大国の韓国と同盟を持続することは、中国を牽制するのはもちろん、東アジア全体のバランスが取れる非常に良好な安全装置になると信じ始めたのだ。過去韓国の地政学は、韓国国民には大国同士の争いで犠牲を強いられる悲しい負担(liability)であっただけだ。しかし、これからやって来る統一韓国の地政学はわれわれを一層貴重な国にするプレミアムとして働くだろう。米国と良い同盟を維持する大韓民国は、中国と日本を統制できる強大な影響力を行使できる国になるからだ。もちろん、統一を成就し強力で価値のある安全な国にすることはわれわれの責務だが、米国はそれが出来る条件を提供しているのだ。
2011年が暮れる今、アジアに向かう米国の姿勢は目立って明確になった。米国は中国周辺のすべてのアジアの国々と関係を一層深めた。フィリピンと同盟を強化し、ベトナムとは準同盟関係に入り、米議会は台湾が要求した新型戦闘機の販売を躊躇するオバマ大統領や中国の激烈な反対を無視して台湾へ最新型武器を提供しろという法案を通過させた。米国は今まで独裁政権だと無視してきたミャンマーとの関係を改善した。2次大戦当時マッカーサー将軍の対日戦争の後方基地だったオーストラリアのダーウィン(Darwin)に米海兵隊が駐留することを約束し、シンガポールには米国のステルス軍艦が駐留する予定だ。
ヒラリー・クリントン国務長官はForeign Policyという権威ある雑誌への寄稿文を通じて、米国の未来戦略を単純明瞭に要約している。「21世紀の世界政治は東アジアで決定される。アフガニスタンやイラクで決定されない。米国はそういう決定が行なわれる東アジアの真ん中に位置する」。米国は2011年12月、イラク戦争の終息を宣言した。イラクを離れた米国は東アジアへ向かっている。
未来がない北韓
金正日が死んだ後北韓がどうなるのかに対して論議が多い。不必要な論議だ。金正日以後の北韓をわれわれはどう変化させるべきなのかに対して論じるべき時だ。国民を食べさせることも着させることもできない政権の持続を望む人はないはずだ。北韓政権は、北の2300万のわが同胞に最小限の自由と人権とパンが与えられる政権に代えられねばならない。金正日が指名した後継者がそうすることができる可能性はほとんど無い。それをするなと選択されたのが金正恩であるためだ。ちょうどファイナンシャルタイムズやドイツの新聞は金正恩を2012年中に終わらせなければならないぞっとする指導者7人の一人に選んだ。この新聞は金正恩が退場すべき理由を「年齢まで不確かな金正恩は、影響力を高め飢謹状況を打開するため他国をもっと攻撃する筈で、これは北韓を持続的に危険な国家にする」筈だと書いた。
金正恩が自分の権力を安定的に確立する可能性はほとんど無い。金正恩が世襲した北韓は、国民の88%に配給ができない「社会主義」国家だ。言い換えれば、北韓が指向する政治・経済体制の88%は崩壊したも同然だ。配給を受ける12%の特権層があるかも知れないが、彼らの暮らしが地下経済や市場のおばさんたちの暮らしより増しでないという話も聞こえる。
この非正常が持続することはもはやできず持続してもならない。金正恩がその役割をなすことはできないため、大韓民国は今北韓の未来に介入せざるを得ない時点に到達したのだ。
米国は中国よりはるかに強大な韓国による統一への支持勢力
この頃大韓民国の人々がひどく誤解している国際政治の常識の一つが中国が米国と競り合えるほどの強力な強大国になったと信じることだ。こういう「常識」は、そのまま大韓民国は統一を成し遂げる可能性がないという諦めに繋がる。強大な中国と戦える方途がないということだ。甚だしくは一部の人々は北韓は中国の属国になると言う。北韓が崩壊した場合、中国が軍事力で北韓を接収するという諦めだ。こういう場合われわれ(韓国)が為す術がないと嘆く。嘆くどころか、それとなくそうなるように望む勢力があるかも知れない。
もし、中国が北韓の急変事態の時軍事力を動員すればわれわれはどうすべきか? われわれが本当に敗北主義で何の対応もしないなら北韓は結局中国の一部になるだろう。そして韓国は中国の威勢の前で清と朝鮮の関係のように生きていくことになる。だが、そうなって良いのか? そうならないようにするのがこの時代にわれわれに与えられた使命だ。高句麗と新羅は、こういう時われわれがどうすべきかに対してすでにわれわれに確実な教訓を教える。
韓半島に存在する国が、中国大陸に存在する国と比較して今日のように強大だったことはかつて無かった。清が滅びる頃、清の朝廷の1年予算は高宗皇帝の王室予算の300倍を超えた。あのような不均衡は今は存在しない。しかも、韓国は中国より何と10倍以上強大な軍事力と3倍の経済力を持つ世界最強の米国と軍事同盟を維持している。2010年3月11日、韓米連合軍司令官だったウォルターシャープ大将(*左写真)は、北韓が急変事態に陥る場合、米軍は介入すると明言した。米国はすでに北韓の核兵器や化学武器など大量破壊武器を掌握できる部隊を作り、その部隊が韓米連合訓練に参加して訓練中である事実も明らかにした。
米国は韓半島全体が米国に敵対的な勢力の手中に落ちることを袖手傍観するほど虚弱で非戦略的な国でない。中国の国力が増大されたと言っても、米国が見るにはまだ「絵に描いた虎」であるだけだ。最近中国の将軍たちが米国の本格的な東アジア進出を非難しながら「米国はオオカミの群れ、中国は羊の群れ」と言った。米国を「悪い国」、中国を「善良な国」に表現するために言った言葉なのかも知れないが、この言葉には見逃せない真実がある。中国の将軍たちの言葉通り、軍事力の側面では米国がオオカミなら中国はまだ羊だ。
世界最高の戦略家たちが競い合っている米国は、中国がオオカミになる前に中国の挑戦を制圧するはずだ。米国が最近本格的にアジアに介入するのは、中国の覇権挑戦を制圧するための大戦略に始動がかかった事実を示している。米国の東アジア戦略の完結版は北韓を米国の影響圏に引き入れることだ。北韓が米国の影響圏に入る日が中国の覇権挑戦が終わる日と看做してもいいほどだ。
北韓が米国の影響圏に入るということは、まさに韓半島の統一に繋がる。驚く人がいるかも知れないが、北韓が本当に生きる道は米国と連繋することであって中国に依存することではない。国境を接している国は決して真の友人であり難いという地政学的鉄則を考えた時、北韓が真に独立と自尊を望むなら北韓が生きる道は米国と連係することだ。北韓はすでにそうする方案を構想し、われわれはこれを北韓の「通米封南戦略」と呼ぶ。
昨今の米国の東アジア大戦略は再びわれわれに統一のための良い国際政治構造を提供している。しかも、金正日の鉄拳統治が終わり金正恩の権力はまだ確立されていない状態だ。2012年は遠い未来の韓半島の運命を決定する年になる。統一された自由民主主義の強大国・大韓民国の姿が目に見え始める。われわれはこの素晴らしい大韓民国の未来を蜃気楼にしてしまう愚を決して犯してはならない。(2011年12月30日)
(*この文は韓米友好協会が発行する「永遠の友」2012年一号に寄稿したものです)
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