ヨーロッパ発の世界恐慌の暗雲が垂れ込めはじめている。輸出で生きる韓国にはまたもや試練を克服するための覚悟が求められている。だが、韓国社会はこの迫る危機よりも、10月26日のソウル市長選と来年の総選挙や大統領選を睨んでの政治闘争にばかり熱中している。特に政治は、ヨーロッパを疲弊させたポピュリズムと「過剰福祉」の結末を目撃しながらも、逆に有権者に全面的福祉を約束するポピュリズム競争に突入した。
一方、危機に備えるべき李明博政権は迷走や求心力の低下で影が薄い。任期を1年4カ月残している李大統領は、相次ぐ側近たちの不祥事などですでにレームダック状況だ。
各種世論調査の結果が示す李明博政府への「民心」は、憤怒の爆発ともいえる。もちろん、政治への不信や憤怒の民心は李明博政権だけでなく、既成政治全体に向けられてもいる。
ソウル市長選挙で、左派市民運動家で無所属の朴元淳弁護士が野党陣営の統合候補になったことは、事実上既存の政治主体に代わる新しい政治勢力の台頭を意味する。政治において権力交代や変化は当然のことだが、問題は急速に台頭しているこの勢力は理念的に従北的性向の人々が中核をなし、特に憲法と法治の面で極めて重大な不安要因があることだ。
朴元淳ソウル市長候補に代表されるいわゆる「左派市民運動勢力」の法治無視は、ほぼ体質化されたものと言っていい。彼らは、「悪法は守る必要がない」という革命的確信を剥き出し、国家保安法撤廃をはじめ、国会の弾劾決議の無効化、組織的な選挙法違反、暴力的な狂牛病ロウソクデモ、天安艦事態で金正日庇護などを主導してきた。そして昨年の選挙で競争候補を買収したことで先月逮捕されたばかりの郭魯〓ソウル市教育監の救出運動まで、数の勢いをもって法治に挑戦してきた。
何よりも今回のソウル市長補欠選挙の原因になったソウル市住民投票の時も、左派や野党は投票をボイコットし、積極的に妨害した。韓国での大規模な投票ボイコットは、南労党が1948年の制憲国会構成を阻止するため総選挙のボイコットと暴動を指令して以来のことだ。
この法治無視勢力の劇的な登場を許したのは、ほかでもなく李明博大統領とハンナラ党である。これは予見された事態だ。李大統領は実際の国政運営で法治を強調したことがない。疎通と統合ばかりを強調してきた。李大統領は異様な意志で、「社会統合委員会」をはじめ、社会統合首席秘書官、社会統合特補、国民統合特補などを設け左派人士らを権力の中枢に据えた。疎通や統合が法に代わり得ると錯覚した大統領の恐ろしい概念のなさや執念と統合のための大統領直属の組織は、税金を費やしながら新しい「法治破壊勢力」を育てただけだ。
文明社会での複雑な利害関係の衝突を調整する根拠は法律だ。先進国とは法治国家のことである。だから、先進国と政府の最大の責務は、個人の自由と共同体の安全、自由民主主義を護ることだ。李明博大統領は、左翼政権が破壊した自由民主主義的秩序の再建と法治を確立する責務を当初から放棄した。国務総理室傘下の委員会が裁判所の確定判決を覆すというとんでもない措置は今も続いている。
政治的「疎通や統合」より優先すべきは、法治に基づく個人の自由と共同体の安全の確保だ。北の金氏王朝の目標は、大韓民国の自由民主主義体制とこれを守護する装置の破壊である。自由と安全の敵との真の疎通と統合は不可能なのに、李大統領は、金正日と連帯した従北勢力とも疎通・統合を試みた。
健全な法治が破壊されると政変や動乱がくるのは必然だ。そして李明博大統領が放置・放任してきた左派・法治破壊勢力がいよいよ奪権闘争に出た。このままでは韓半島の自由民主主義は滅びるだろう。
自由民主主義を守護する最終的責任は政府と政権にある。李大統領に残された時間は少ない。李大統領は国民への奉仕者としての歴史的使命に戻り、今からでも法治の確立に全ての余力を絞り出すべきだ。 |