ユン・グヒョン著 ヒューマンオリニ刊 画/イダム
影絵のようなシルエットと鮮やかなグラデーションが美しいこの絵本は、原始時代に暮らす〈朝焼け〉という名の少年の物語。主人公は、力があってかけっこも速く、足あとで動物も見分ける賢く勇敢な少年だ。でも、どうしても狩りができない。傷ついた動物を助けるほうが好きなのだ。父親からはとうとう動物を捕れなければ家に帰ってくるなと言われてしまう。
一人森に入っていった少年の前にはノロジカやウサギが現れる。でも、愛らしい動物をどうしても捕まえられず、罠にかかったオオカミまで助けてしまう。獲物もなく森に闇が訪れるころ、少年は友だちが木の下で苦しんでいるのを発見する。毒のある実を食べたのだ。狩猟はできなくても少年は薬草を知っていた。なくなったおじいさんからあらゆる森の知恵を教わっていたからだ。薬草を口に含ませて友だちの命を救った少年は、父親や村人からも認められることになる。それから少年は森に出かけると、狩りのかわりに自然の声に耳を傾けた。おじいさんは「森はおまえの先生だ。たくさんのことを学びなさい」と言っていた。少年は森をよく知っているけれど、まだまだしらないことのほうがたくさんあるのだ。
物語の著者、ユン・グビョン氏は、95年に哲学科の大学教授を辞めて、全羅北道の扶安郡、辺山という田舎に移住した。そこで農業を営む自給自足の共同体を作り、自然の中で隣人たちと生活しはじめる。今でも20世帯以上が共同体や近隣で共に暮らし、辺山共同体学校には山村留学の子どもたちもやってくるという。
70歳に近いユン・グビョン氏も、まだまだ自然から学ぶことはたくさんあると考えている。それぞれが自由にのびのびと、異なる個性や特技を発揮できる社会が望ましいとも。
日本でもユン・グビョン氏の四季の絵本が出ているが、子どものための数々の本、共同体の暮らしを綴ったエッセイには、自然の中での暮らしから体得した著者だけの哲学が溶け込んでいる。
(よしはら いくこ 翻訳者) |
- 2011-01-19 6面
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