北韓は44年ぶりに開いた朝鮮労働党代表者会で金正日から金正恩への権力の父子3代世襲を決定した。世界に例のない非民主主義的措置だ。金日成から金正日への父子継承があった1974年から数えて36年、1980年に開いた第6回党大会から数えて30年という長期間を経た後の世襲再現に言うべき言葉がない。北は開かれた平明な人民主権体制からますます遠ざかっている。
同時に朝鮮労働党代表者会は、党規約にある共産主義社会の建設という党の最終目標を削除した。国家指導理念としていたこの文言は昨年の憲法改正でも削除されていた。
ならば、現体制の存在理由は何かということになるが、党規約が「全社会を主体思想化し、人民大衆の自主性を完全に実現する」と表現を改めたところにあるということになる。同時に「継承性の保障が党建設の基本原則」とする文言を設け、権力の3代独占世襲を正当化している。また、「党は先軍政治を社会主義の基本政治方式として確立する」と先軍体制維持を明言した。憲法改正で国防委員会を最高機関とした措置に呼応させたのだろう。
しかし、「主体思想化」というあいまいなタームでは指導理念として不十分であろう。継承性は人民主権原理に還元して人民の承認にゆだねるべきだ。したがって、今回の後継人事と規約改正は、北社会が名実ともに世襲君主制、金王朝体制であることを改めて宣言したに等しい。
問題残した中国の承認
北の後ろ盾となっている中国の指導部は「最高指導機関が選挙で誕生したことに熱烈な祝意を表す」と表明した。「選挙で」とことわっている点に世襲を認めたくない中国の苦心が読み取れる。中国指導部は全員叩き上げだ。血統・血縁に頼る特権的地位ではない。統治機構に関わる上での原則を曲げてまで権力世襲を容認したのは、金正日の健康不安を受け、他に受け皿のない北の権力承継を緊急避難的に受け入れたものなのか疑問だ。
金正恩への世襲には矛盾がつきまとう。核開発によって体制の防衛と大国の承認獲得を懸けている先軍政治の戦略には強力な指導力が要求されるのに、それを支えるのは後見付きの世襲体制であるという点と、強盛大国を開くという大命題を不安定な世襲権力で臨むという点だ。
北体制の今後は世襲権力の維持が至上目的となり、噴出するであろう世襲批判の封じ込めに難渋するだろう。それにともない必然的に粛清が活発になることが予測される。
対外的にも世襲権力の体面維持にかなりのコストを支払うことは避けられなくなった。冒険主義的な対南政策がいつ起こされるかも懸念事項だ。そのときの混乱に備えて韓国は粛々と不慮の事態に万全の備えをとることが求められる。
経済建設へのハードル
2年後に強盛大国の門を開けることをスローガンとする北は3代世襲を人民に受け入れさせるためにも経済建設でこれ以上の失敗はできないが、前途はけわしい。
「強盛大国」を唱えるからには食糧難からなくさなければなるまい。食糧保障の前には万人が平等である。非効率な食糧配給制は姿を消し、市場に依拠する勢力が広がった。市民の蓄えた金融資産を取り上げようとしたデノミの失敗によって市場革命が進んでいることも明らかになった。今後、こうした変化を抑止することは困難であろう。
中国からの外資導入もカギだ。外資が先軍政策で浪費されたりすれば信用問題だ。
したがって、3代世襲体制下で開放的な経済政策をとるのが否かが経済建設の鍵を握るだろう。人民主権の原則と開放された社会こそが発展の原動力であるという原点に立ち返ることはとても期待できそうもない。ますます、前世紀以前の封建制度に輪をかけた独特な封建奴隷制をほうふつさせる。実に恥ずかしいことだ。このような体制を廃止するために全民族を挙げて、あらゆる努力をすべきだ。 |