趙甲済
今晩(9月2日)筆者、米国政府の前職対北工作官、そして高位級脱北者が会って二時間討論し、下のような分析に概ね同意した。
1.金正日は今回の訪中の時金正銀を同行しなかった。金正日は胡錦涛主席と会った時後継者問題を出さなかった。金正日は、権力継承は中国の了解を得ねばならないという考えは夢にもしない。中国も共産主義に逆行する権力世襲を公式的にせよ非公式的にせよ支持できない。
2.金正日が中国に行ったのは、封鎖された北韓に中国からの経済支援を訴えるためだった。中国は北韓に条件なしで6者会談に復帰することを説得し、同意を取り付けた。「条件の無い復帰」は、北韓としては譲歩と言えるかも知れないが、韓国と米国としては軽く受容れ難いカードだ。
3.金正日が満州の金日成の足跡を訪ねたのは、金日成を利用して墜落しつつある自分の位相(地位)を高めるための対内用だった。
4.9月4日開幕する北韓労働党代表者会は、壊れた党機構を復元して金正日の退場に備えるためだ。特に政治局を整備するだろう。金正日が死んだら政治局が党の権力を継承する。今は政治局の常任委員が金正日一人であるため、彼が死ねば権力の真空状態が生じる。
5.金正銀は登場しないだろう。今は金正日の権威を回復させねばならない時点であって、後継者問題を出して権力を分散させる時でない。金正銀は後継者になるほどの資格がない。北韓労働党規約のどこにも「金正日の息子」が首領にならねばならないという規定がない。金正日のように党要職を占めて実績を残してこそ首領になれる。金正銀は労働党幹部らが全く知らない人物だ。労働党党員であるかさえ定かでない。金正日が弱まる状況では3代目の世襲が不可能だ。北韓は、金正日は「金日成の息子」であるため後継者になったのではなく、業績があるため後継者になったという論理を取っている。
6.金正日の退場が近づいたようだ。国際的に、南北関係、北韓の内部事情、そして金正日の健康などすべての点で金正日は健康と権威を回復するのが不可能だ。金正日が死ぬと政治局が権力を継承し、集団指導体制へ行くだろう。
7.金正日が消えれば北韓に前例の無い変化が起きるだろう。金日成が死んだ時は金正日という別の偶像があった。金正日が死ねば北韓住民ははじめて神から解放される。その衝撃はすごいはずだ。何よりも権力に対する恐怖心が減る。そうなると支配層の中で権力葛藤が起き、住民の行動も果敢になるだろう。
8. 金日成と金正日に対する歴史的評価が始まり、これは格下げの性格を帯びるようになるはずだ。強制収用所が解体される。強制収用所に収容された人々は労働党の幹部が多い。彼らを解放して支持基盤としようとする勢力も現れるだろう。北韓労働党を改編、改革、改名せよという声も高まるだろう。改革勢力が、南韓内の「従金勢力」を除去するため秘密資料を公開するかも知れない。
9.配給でなく市場を通じて生きてきたいわゆる「市場勢力」は金正日政権に立向かって市場を護った(昨年の貨幣改革後)。金正日が死んで誰が執権しても市場勢力を抑えられないだろう。日々大きくなる市場が、変化の母胎になるだろう。
10.ヒットラー、スターリン、毛沢東、チャウセスクなど、神格化された指導者が死ねば必ず本質的な変化が起きる。北韓では変化の速度が非常に速いだろう。その変化は北韓(の独裁)体制の崩壊につながる可能性が高い。
11.韓国が民族自決主義の原則と韓米同盟を堅持するなら、北韓を吸収統一し、自由民主主義体制にする過程においての中国の妨害を克服できるだろう。
12.金正日は社会主義の矛盾点をよく知っていたが改革ができなかった。その理由は偶像化のためだ。改革・開放をすれば偶像体制が崩れる。偶像が崩れれば全体主義権力が解体される。金正日は、自分と父を偶像化したことで、改革を行いたくても不可能な罠に自らを追い遣ったのだ。彼もまた、偶像化の捕虜であった。
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