金成昱
北韓問題に臨む米国の態度が尋常でない。最近の事実関係を整理してみるとこのようだ。
1．ウォリス・グレグソン(Wallace Gregson)米国防部アジア太平洋担当次官補は、10月14日(現地時間)のブリーフィングで、｢北韓の挑発局面(provocation phase)が終わり、われわれは柔軟局面(charm phase)に入った｣と言い、その事例として温家宝中国総理の平壌訪問と金正日の｢6者協議｣への復帰意思発言を挙げ、｢北韓側が李明博大統領を平壌に招請した｣と話した。
青瓦台とホワイトハウスは共にグレグソン次官補の発言を否認したが、情況上信じ難い。国防部のアジア太平洋担当次官補が失言したという解明も納得が行かない。グレグソン次官補の発言はアメリカ政府がいわゆる「頂上会談」に反対しないことだけでなくあたかも斡旋するような印象を与える。いったいなぜであろうか?
2．難解なことは、アメリカが金正日以後の｢急変事態｣に対する対応策も議論している点だ。 この対応策は韓国と協議するチャンネルと、中国と協議するチャンネルの二つの方向に展開するという点で一層特異だ。
外交筋によれば、10月の13～14日、北京でアメリカの戦略国際問題研究所(CSIS)と中国の現代国際関係研究所(CICIR)が共同主催した非公開のセミナーで、北韓の急変事態への対応策に対する米・中専門家および官僚たちの協議があったことが分かった。一部では中国を訪問中のカートキャンベル米国務部東アジア太平洋次官補と｢6者協議｣の中国側首席代表の武大偉外交部副部長が会議に参加したのではないかという観測も出ている。
米・中両国の代表的な国際問題シンクタンクであるCSISとCICIRは、昨年の夏、金正日の健康異常説が出てから北韓の急変事態に備えた共同プロジェクトを進めてきた。
北韓問題の直接当事者である韓国政府が排除されたという事実は衝撃的だ。最悪のシナリオが現実化する感じだ。金正日後の北韓の未来をアメリカと中国が決める「ビッグ・ディール(Big-Deal)」がそれだ。米・中のビッグ・ディールは、金正日以後、いわゆる｢親中政権｣を作って北韓を自身の影響力の下に置こうとする中国の長期的利益と、北韓を中国に委ねて核武器の拡散を防ごうとするアメリカの短期的利益が合致した結果だ。これを通じて、日本と韓国の核武装を防げるという点で、ビッグ・ディールはアメリカの立場からそれほど損することのないゲームだ。
3．北韓の急変事態への対応策と関連して理解し難いのはアメリカの態度だ。10月1日付の報道によれば、｢米国と韓国政府は、8月にハワイのイーストウェストセンター(East-West Center)で開かれた非公開の会議で、北韓の急変事態発生に備えて韓国主導で両国が警報体制を作るなど共同対応策を用意するように合意した｣という事実が報道された。汎政府次元で韓・米両国が北韓急変事態を議論したのはこの会議が初めてだ。
この日の会議で、韓・米両国は急変事態への対応に関する基本原則として、韓国が主導的な役割(main actor)を担当しながら、自由民主主義に基づいた統一韓国を建設することに両国が協力すると合意したという。また、中国の肯定的協力を誘導することも諒解したという内容も含まれている。
ウォルター・シャープ駐韓米軍司令官は、9月29日、北韓急変事態と関連して、｢広範囲な対北シナリオを検討中である｣と表明した。彼は、具体的な単語は言わなかったが、事実上｢北韓急変事態に備えた『作戦計画5029』が相当部分はかどった｣と触れた。
作戦計画5029は、北韓で政権交替やクーデターなどによる内戦、北韓内で韓国人の人質事態、大規模の住民脱北、自然災害、核と生化学武器など大量殺傷武器(WMD)の流出など六つの不安定な事態に対する類型別軍事対応計画を盛込んだものだ。
シャープ司令官は、4月の大韓商工会議所招請演説でも、「北韓の偶発状況に備えた計画を準備中」とし、「すでにこの計画を練習して、偶発状況の時直ちに適用可能だ」と話したことがある。
4．以上の複雑なアメリカの態度は、全てが金正日以後を前提にしたものと見られる。整理すれば下のようになる。
(1) アメリカは、金正日以後の北韓急変事態発生の時、韓国が主導的役割(main actor)を担当する方向で｢作戦計画5029｣を発展させて、自由民主主義の統一を誘導した方が良いと思う。
(2) だが、アメリカは(中国の反対あるいは韓国政府の消極的立場で) (1)の実現が難しいか不可能な場合は中国と妥協して北韓内にいわゆる｢親中政権｣を作る方法も考慮する。北韓の核武器を解決し、日本と韓国の核武装を防げるという点で短所よりは長所が多いと見ている。
(3) 金正日以後の北韓急変事態は、事実上｢親中政権｣に繋がる確率が支配的という点で最適の選択ではない。アメリカの立場からは、金正日以後の北韓を｢親米政権｣ないし｢中国はもちろん、アメリカに対しても敵対的でない政権｣を作ることが最適の選択だ。
このためには親中派と親米派が共に参与する一種の｢集団指導体制｣を作らねばならない。ここでカギは、北韓の急変事態を防げるように体制を維持させてあげることだ。北韓の体制崩壊を阻止する方法は何か? アメリカは、｢6.15｣と｢10.4宣言｣の南北韓連邦制の構図を作って、北韓に対して韓国が恒久的に支援すれば良いと見ているのではないだろうか? いわゆる｢頂上会談｣を斡旋するような態度はここから来たのではないか?
(4) (3)の方式は、金正日の存命中も適用可能だ。北韓急変事態をできるだけ避けたいアメリカの立場を考慮してみると、北韓体制を維持させながら、その代価として北の核武器廃棄を引き出す試みも可能だ。北韓はオバマ行政府の出帆直後の去る1月と2月、平壌を訪問したアメリカの前職官僚や北韓問題専門家たちに｢果敢なディール｣をしようと言いながら、｢北韓は核武器を放棄し、米国は対北敵対視政策の終了と韓国に対する核の傘の除去や韓米同盟を終わらせる方案｣を提示したと伝えられる。
北韓が言うアメリカの対北敵対視政策の撤回と米・北間平和協定締結とは、韓米同盟を終了し、駐韓米軍を撤収しろということだ。 いわゆる北の原爆と駐韓米軍を交換する取引が行われることだ。アメリカが南北韓連邦制の前にこのような腹心を抱いていわゆる頂上会談を斡旋しようとするのではないか?
(5) 明白なことは、アメリカの対韓半島政策は決定されていないとのことだ。国益を優先して判断するのみ、アメリカは自由民主主義統一から南北韓の連邦制まであらゆるオプションを考慮しているように見られる。結局、韓国の意志が重要なわけだ。
5．韓国の意志はどこにあるのか? MBCテレビは10月20日の9時ニュースを通じて、李明博大統領の実兄の李相得ハンナラ党議員と金養建｢労働党｣統一戦線部長がインドネシアで会っていわゆる｢頂上会談｣の可否を打診したと報道した。MBCは、外交筋の話を引用して、金養建部長が李相得議員をインドネシアで会ってから、北京を経由して平壌へ帰ったと付け加えた。
青瓦台は、MBCの報道内容を否認したが、いわゆる｢頂上会談｣の可能性は何度も出た話だ。李東官広報首席は、10月15日、｢李大統領は、韓半島の平和と民族の将来のためなら、いつでも金正日委員長に会うことができるという立場を何度も表明してきた｣としながら、ただ｢頂上会談を含む南北対話に開かれた姿勢で対応するものの、原則と大義から外れることは無いという点をもう一度明確にする｣と言った。
李大統領と温家宝総理は、10月10日の韓・中首脳会談でも、｢南北関係の進展がなされれば、南・北頂上会談も可能ではないか｣という話を交わし、李大統領は同じ日の韓・日・中の頂上会談直後の記者会見で、｢グランド・バーゲン｣提案と関連して｢機会があれば、いつでも北韓に対してもそういう方針(グランド・バーゲン)を説明して協力を求めたい｣と話した。
いわゆる｢頂上会談｣は、北の核武器廃棄を条件として体制保障や経済支援をやるというのが核心だが、｢6.15宣言｣と｢10.4宣言｣という南北韓の連邦制を実践する方向に帰結されるだろう。北韓体制を維持させねばならないという中国の確固不動な立場と、流動的に揺れるアメリカの立場の間で、大韓民国政府がいわゆる｢頂上会談｣を進めるならその結果は暗澹たるものだろう。
金正日が生きていようといまいと、形式的な統一がなされようとなされまいと、｢朝鮮労働党｣は命脈を維持し、南韓の親北左翼の作乱も続くだろう。南・北韓の左翼の不法、暴力、無秩序は酷くなり、先進化への前途は遼遠になるだろう。北韓は中国の｢東北4省｣に転落し、南韓は自由統一を成し遂げられず、脱北乱民だけを抱えることになるかも知れない。この全ての試練と患難を克服できる近道は、憲法に戻ることだけだ。｢朝鮮労働党｣を平和的に解体して自由民主主義をもって統一することだ。韓国に法治と秩序を建てて、これを北韓に適用させることだ。この他に別の道は無い。これが2009年10月末の真実だ。
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最終更新日: 2025-04-04 09:25:35
