趙甲済
李明博大統領の「中道実用路線」は経済、社会、福祉政策には有効だが、法治、安保、国防、対北問題に適用されてはならない。法治と安保には中道が立つ場がない。法治と安保は、敵や悪を相手にする分野なので、中道は結局、敵や悪に肩を入れるか黙認することになる。政策においては中道が可能だが、道徳性と価値観に関わる問題では中道が割込めない。
李明博大統領が中道実用路線を標榜した前後の行跡を見ると、いくつか気になる点がある。
1.国家の正統性やアイデンティティと関連した部分で原則を守らない。われわれと交戦した共産敵国のホーチミンの墓地に参拝したこと。刑事被疑者の身分で自殺した前大統領を「国民葬」で、また他の前職大統領を現職のように待遇して「国葬」で特別待遇したこと。その一方で。近代化の大統領と建国大統領を無視-冷遇していること。「6.25南侵60周年行事委員長」に国家反逆者の追慕事業委員長出身を任命したこと。大韓民国に反対して金日成の寵愛を受けた作家を異例的に頂上会談のための外国出張に伴ったことなどだ。こういう姿勢は、李大統領の「中道実用路線」が、反大韓民国勢力の歓心を買うため、譲歩できない「国家の核心価値」までも放棄できるということなのか疑うようにする。
2.「中道」は憲法精神と衝突する。憲法第1、3、4条は、「北韓労働党政権の平和的な解体による自由統一」を国家意志と国家目標として規定した。憲法は、大韓民国が韓半島唯一の合法国家であることを宣言し、北韓政権を国家として認めない。李明博政府は、明白に憲法に違反した「6.15宣言」の廃棄を未だ宣言していない。北韓政権の対南工作路線に同調する綱領を持って行動する「民主労働党」が違憲政党であることが明確なのに、解散の手続きを取らない。この民主労働党の母胎であり路線を共にし、特に駐韓米軍の撤収を主張する「民労総」へ公務員12万人が加入すると決議した事態を防げなかったのは、民主労働党に対する憲法的判断を求めなかったのが一つの理由だ。MBCの総体的な放送法違反、「全教組」の各種法律違反、「過去事委員会」などの反憲法的活動に対して法的対応を正しく取らない。多くの公務員たちは、大統領の「中道」を反憲法勢力に対する妥協や譲歩路線として理解する。自由民主主義体制の守護者であるべき公務員集団が、体制守護を避け、駐韓米軍の撤収のような体制破壊的な主張に同調する行動を取っていることは、「中道路線」の致命的な問題点を露呈している。
3.安保は、国内の左翼反逆勢力から体制を護ることであり、国防は、北韓軍の脅威から祖国を防御する概念だ。「中道路線」が体制の敵に対しても適用されれば、軍隊、検察、警察、国家情報院は「主敵概念」が薄れる。北韓軍の金剛山観光客射殺、臨津江への無断放流による韓国人6人死亡、開城工団に居住する韓国人の随時抑留事態に対して、まともに問責や膺懲をしなかった。ほぼ1000万人が署名した「韓米連合司令部の解体反対」運動を無視して、2012年の解体計画を推し進める。兵役未了者を核心要職に集中的に起用する。無理な軍服務期間短縮計画を修正しない。大統領は、徴兵制廃止や減軍につながるかも知れない在来式軍事力の縮小を軽く北韓側に提案もした。国防次官が、長官を経由せず大統領府と直接取引して国防予算案の縮小を推進する下剋上事態も幇助した。
4.「中道路線」が対北関係にも適用されれば、北の核武器廃棄という目標を達成できない。金正日が取引によって核を放棄することはないはずだからだ。金正日は、自ら死活を決めねばならない危機に追込まれる時だけ、核武器を廃棄するはずで、そうさせるためには韓国は一戦を辞さない姿勢を取らねばならない。対北政策は、憲法と憲法的価値を毀損してはならない。国軍捕虜、北へ拉致された人々、脱北者、強制収用所、公開処刑など、北韓人権問題を正面から取り扱い、「平和協定」の段階では、「6.25戦争」犯罪を必ず問わねばならない。
5.共同体を維持するためには、不法に対する膺懲力と敵に対する報復力を持たねばならない。この問題に「中道路線」は解答を与えられない。「中道」が脱理念を意味するなら、理念戦争の真っ最中の韓半島情勢には合わない路線になる。法治と安保分野においても没価値的概念である中道路線を追求すれば、国民精神を壊して体制守護を難しくするだろう。
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