趙甲済
検察の「龍山放火事件」捜査が「警察の鎮圧作戦に間違いなし」と結論が出るや、李明博大統領は、金碩基警察庁長内定者を「自ら辞退」の形で追い出し、自分の安全を図る決心をしたようだ。21人の警察官がシンナーに火炎瓶を投げる暴徒らを鎮圧中、火炎の中で死んだりケガをしたのに、大統領はまたも「龍山放火集団」を庇護する勢力の顔色を窺いながら、警察と健全な国民を裏切っている。計算には明るく、勇気はない商売人大統領の限界を見る気がする。韓半島では、真の戦略と勇気は理念から出る。理念を捨てたと公言した李明博大統領に、最小限の勇気を期待した国民は、これから(李明博の)背信に歯を食い縛るだろう。法治を確立する転機にすることができた機会を、法治を決定的に壊すのに悪用したわけだ。
彼は、ほぼ勝ったゲームを放棄する無能な監督の道を選んだようだ。ハンナラ党が全く支援してくれなかった状況でも、世論の戦線でこの程度でも持ちこたえたのは警察と健全な国民が孤独に戦ったおかげだ。検察も、このような世論の後押しを受けて、よく捜査した。その間、青瓦台とハンナラ党の日和見主義者らは、警察をならず者勢力に生け贄として捧げる工夫ばかりをした。国民の力で苦労して勝機をつかんでおいたら、身を隠していた指揮官が現れて、馬鹿騒ぎ勢力に降参してしまう恰好だ。
韓国の馬鹿騒ぎ勢力が、金碩基(警察庁長)内定者を犠牲させた李明博大統領に感謝して馬鹿騒ぎを止めると思う「仮利巧屋」らは、左翼と戦ってみたことがないため、左翼との闘いの仕方が分からない連中だ。国民は複雑な事件を簡単に記憶する。「警察庁長内定者が自ら辞退したから、龍山事件は誰がなんと言っても政府や警察が過ちを犯したものだ」と思うだろう。馬鹿騒ぎ勢力も、「警察庁長内定者が責任を負って辞退したことでは済まない。内閣が総辞職すべきだ」というふうに出てくるだろう。金碩基内定者の辞退説が報道された今朝から、保守言論までが李明博政府の誤りを既定事実化して攻撃し始めた。
法律的に潔白さが明らかになっても、金碩基氏が道徳的責任を負って「自ら辞退」することになっているという話は10日前から報道された。誰が見ても金碩基氏の単独決心による辞退でなく、李明博大統領と側近らが彼に圧力を加えた事実上の「強制辞退」だ。これは「自ら辞退」というショーだ。道徳的責任を負うと言いながら不道徳な政治的ショーをやっているのが李明博政府だ。
法治国家で「道徳的責任」とは、いったいどういう意味なのか? 耳にかければイヤリング、鼻にかければ鼻リングになるのが「道徳的責任」というわけだ。
1.金碩基内定者は殺傷用の火炎瓶で武装した暴徒たちを鎮圧せよとの命令を下し、警察は職務規則を遵守しながら鎮圧に出た。暴徒らがシンナーを撒き、火炎瓶を投げて火事を起した。5人の籠城者と1人の警察官が死んだ。20人の警察官は負傷した。警察は被害者だ。それにも被害者に道徳的責任を負えという。警察が被害を受けたこと、断固として鎮圧命令を下したのが「不道徳だ」ということを前提とした話が「道徳的責任」だ。警察幹部たちがこのような「道徳的責任」を避けるためには、不法と暴力、さらには殺人と反逆の現場を見ても「鈍い対処」をするか、公権力を行使しない道しかない。こうなれば国民が被害を受けるようになる。すなわち、李大統領の(自らの)保身と卑怯さのため、警察が無力化され、国民が被害を受ける最も不道徳なことが生じるようになった。大統領が、警察を励ますどころかロウソク乱動をよく鎮圧した魚清秀警察庁長を早期退陣させ、「龍山放化事件」を勇敢に鎮圧した内定者を強制辞退させるのに、警察が超人集団でないなら誰が身を投げて法を守護するため出るだろうか?
2.法律的に過ちがないのに、「道徳的責任」まで取れというなら、大統領を含む如何なる公職者も、難癖や馬鹿騒ぎが専門である左翼らの攻勢に耐えられない。今日の経済危機は李大統領の責任でない。だが、数多くの国民が苦しんでいる。それでは、李大統領も「道徳的責任」を負い退かねばならないではないか?
3.結論的に、李明博大統領は自分一人生き残るため警察と国民を捨てたのだ。韓国で最も大きな力、それも正当性のある公権力に対して責任を持つ人の魂が、卑怯で、敵と悪を見ても怒らないなら、神様もそのような人を救済できない。このような人が国軍の統帥権者になって、核武装した金正日と相対しているという現実は一つの悪夢だ。就任以来ただ一度も国民を感動させたことのないこの大統領の支持率が30%というのも「漢江の奇跡」に属する。彼はマーガレッド・サッチャーの役割をなすべき状況で、張勉(第2共和国の総理)の真似をしている。こういう大統領と与党を信じて生きる国民が可哀想だ。仁寿峰(北漢山の主峰の一つ)に登る登山家が頼るザイルが実は腐った縄であるのが判った時に備え、補助ザイルを用意せねばならない時点だ。
4.警察に肩入れした国民は、難癖・馬鹿騒ぎ・嘘・扇動の専門集団のみを尊重し、自分たちを無視する李明博大統領を人間的に軽べつし始めるはずだ。指導者が絶対にやってはいけないことが二つあるとマキャベリが言った。国民から怨恨を買うか軽蔑されること! ロウソクならず者らが歌う「朝のつゆ」を青瓦台(大統領府)の裏山に登って傾聴したという話を、恥も知らずに言える人は、そのような幼稚な演説文を書いた秘書官が「私が名文を書いた」と自慢して回るように放置する大統領は、卑怯さで法治を破壊する人だ。
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