韓国で、反中国(反中)感情の高まりが単なる外交問題を超え、社会的分断や若者のメンタルヘルス危機を引き起こす深刻な社会問題として顕在化している。かつて経済的パートナーとして見なされていた中国が、今や「脅威」の象徴となり、街頭デモやオンラインでの抗議が日常化。結果として、世代間対立や排外主義が助長され、社会の空気が変化してきている。
ソウルの光化門広場や江南の繁華街で、2025年秋以降、週末ごとに「中国の干渉を許すな」と叫ぶデモが繰り返されている。プラカードには「スパイ追放」「文化盗用反対」の文字。若い参加者が目立ち、スマートフォンでライブ配信しながら「中国製品ボイコット」を呼びかける姿が日常風景となっている。
SNS上では、こうしたデモ参加者や若年層から「政治危機の裏で中国が絡んでいるという話が広がり、怖くなった」「周りの友だちもみんな同じ気持ち」という声が相次いで投稿され、反中感情の広がりを象徴している。
米ピュー・リサーチセンターが25年7月に発表した調査(25年1~4月実施)によると、韓国人の中国好感度は19%と、前年の25%から急落。調査25カ国で唯一の大幅低下となり、アジア太平洋地域でも最悪クラスだ。一方、アサン研究所の25年3月調査「South Koreans and Their Neighbors 25」では、中国好感度を0~10点で評価した場合の平均が3・13点(前年4月の3・25点から微減)。日本への好感度は過去最高の4・52点に上昇し、米国5・92点が突出する中、中国は北韓(2・56点)に次ぐ低水準となった。米中どちらを将来のパートナーとするかの選択では、85・8%が米国支持と過去最高を記録。中国支持はわずか14・2%にとどまる。
こうした感情の背景に、安全保障面の現実的な懸念が横たわる。国家情報院(NIS)は25年4月、24年6月以降に中国人による軍事施設の無許可撮影事件が11件確認されたと国会で報告。ドローンを使った海軍作戦司令部や米空母撮影、空港・基地への接近が相次ぎ、観光客や留学生、未成年者も関与した事例が目立つ。25年3月には現役軍人からTHAAD関連機密を狙った中国人情報員の逮捕も報じられた。これらの事件はメディアで大きく取り上げられ、「身近な脅威」として市民の不安を増幅。SNSでは「中国人が写真を撮るだけでスパイ?」という投稿が拡散し、街中で中国人観光客への視線が厳しくなるケースも増えている。
さらに、政治危機が感情を加速させた。2024年末の尹錫悦前大統領戒厳令宣布・弾劾騒動では、「中国・北韓関連勢力の民主主義破壊」を主張。尹氏自身が「中国系企業による偽ニュースサイト38件」(23年発覚、24~25年も継続拡散)を問題視し、保守系YouTubeやSNSで「中国スパイ99人逮捕」などの情報が飛び交った。
東アジア研究院の世論調査では、反中感情が15年の16%から25年に71%超へ急増した要因の一つに、この政治問題を挙げる専門家が多く、若年層を中心に「中国の影響工作」が日常会話のテーマとなり、選挙期間中には投票所前で中国人風の通行人をチェックする過激な動きも散見された。
文化面では、中国側の「キムチやビビンバは中国起源」主張に対する反発も、SNSで繰り返し炎上している。
日本との比較が興味深い。ピューの25年調査で日本の中国好感度は13%と韓国を下回る低水準。尖閣諸島問題や軍事脅威が主因で長期的にネガティブだが、韓国のように国内政治危機で感情が爆発的に高まった事例は少ない。
日本は防衛施設周辺の土地規制強化など「国家安全保障」中心の対応が目立つ一方、韓国では政治的分断と日常の不安が絡み合い、社会全体に波及している点が違いだ。両国とも米中対立で米国寄りの姿勢を鮮明にし(韓国85・8%、日本も同様傾向)、中国の影響工作への警戒を共有している。
こういったなか政府はスパイ防止法改正を検討するが、感情の高まりは経済・文化交流にまで影を落としている。
韓国社会は「反中」という一つの感情が、若者から高齢者までを巻き込み、日常の分断を生んでいる。世論調査が示す数値は、単なる数字ではなく、街角のデモやSNSの怒り、隣人への疑心暗鬼という現実を映し出している。政治や安保の緊張が、社会の空気をどう変えるのかその影響は、日々広がり続けている。
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